第 1 話 産業革命としてのクラウド (全 3 話)

今や新鮮味のある予想ではありませんが、私は「クラウドは今後さらに広範に活用され、より一般的な方式になる。一方、従来型の IT 運用はなくなることはないが、縮小する」と考えています。その根拠を、クラウドの裏側での運用の生産性 [1] という観点でご説明してまいります。

 

コンピューターの提供形態は皆さんご存知の通り、大型ホストから始まりクライアント サーバー、イントラ ネットなどと変化してきました。その中で IT プラット フォームの運用効率も着実に改善してきたのは間違いありません。しかし、クラウド コンピューティングというのは、この効率/生産性がこれまでの改善とは全く別次元のレベルで劇的に変わります。従来型の IT プラット フォームとクラウドの特徴的な違いはたくさんあるのですが、その中でこの運用生産性の違いはこれまであまり語られていないように思われます。

 

クラウドの中では、すべてのコンポーネントは徹底的に仮想化され、作業手順は標準化され、人手の介入を排除すべく自動化されます。この取り組みは、以下の観点でメリットがあります。

  • マニュアル作業のミスによる品質低下を極小化する
  • お客様ニーズに合わせた迅速な、機能及びキャパシティの拡張を実現する
  • スケール拡大に伴う人件費コストの拡大を抑える

 

これらについて次回以降の連載の中でも繰り返し触れることになると思いますが、今回は「運用の生産性」という観点で掘り下げてみたいと思います。

従来型の IT の運用では、様々な場面で人によるマニュアル操作が介入し、それによって運用に柔軟性を生みユーザー インパクトを回避するのが一般的になっています。たとえばハードウェアの老朽化を更新する作業を考えてみましょう。ざっとした流れはこんな感じでしょうか。STB13_Jason_06

  1. 新規ハードウェアの調達の調整
  2. ハードウェア セットアップ
  3. OS とミドルウェアのセットアップ
  4. アプリケーションのセットアップ
  5. システム切り替えタイミングのユーザーとの調整
  6. 切り替え作業
  7. 旧ハードウェアの撤去

これらの作業のうちどこまでが自動化で実現されているかは企業によって異なりますが、作業全体のコーディネーションは必ず人の手によって行われています。対象システムの重要度、業務の繁忙期、予算と会計年度の兼ね合いなど四方八方をにらみつつ、いつまでに各作業段階が完了しなければいけないのかが計画され、様々な制約条件との関係から各ステップの実施時期が綿密に計算されます。特にユーザー影響が避けられない作業のタイミングは利用部門と十分に調整を行い、業務影響を最小に抑えられるよう万全の体制で臨む、というのが企業 IT では一般的なパターンかと思います。こういった複雑きわまりないコーディネーションを人が根回し、調整しコントロールしています。
個々のステップの作業内容についても、繰り返しの頻度がよほど多くない限り、つまりシステム規模がよほど大きくない限り、投資対効果の観点からわざわざシステム化して自動化するのは「割に合わない」という結論になり、人によるマニュアル作業の割合が多くなる傾向にあります。

では、クラウドの場合はどのように進むのか、次回をお楽しみに。


[1] 「生産性」には様々な定義方法があります。ここでは、ひと一人あたり何台のサーバーを管理、運用できるか、という意味だと考えてください。


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