ユーザー エクスペリエンス研究ツールと技法


はじめに、この投稿の執筆者を紹介します。この投稿は、Office Design Group (ODG) で UX Researcher (ユーザー エクスペリエンス研究者) を務める Tim Weber と、UX Research Manager (ユーザー エクスペリエンス研究担当マネージャー) を務める Tricia Fejfar の 2 人が担当しています。Shawn が彼の投稿「ユーザーに配慮した設計」で述べているように、ODG に属するユーザー エクスペリエンスの研究者は、お客様のニーズを理解し、お客様からのフィードバックを Microsoft のソフトウェア設計プロセスに統合するために尽力しています。ここでは、私たちのチームが行っている Office 2010 に関する研究の一部をご紹介し、それらの研究がお客様のユーザー エクスペリエンス全般の向上にどのように寄与しているかについて説明します。

ユーザー エクスペリエンス研究 (UX Research) とは

ユーザー エクスペリエンス研究とは、市場調査、製品化計画研究など、Microsoft が行っている他の種類の調査や研究を補足するものです。他の調査研究と重複する部分もありますが、Excel、Word、SharePoint、PowerPoint、Visio、 Project などにおける Office エクスペリエンスの形成に役立つ情報を提供するための調査と考えることができます。ユーザー エクスペリエンスの研究者として、私たちは次のような課題に取り組みます。

  • ODG が作成するシナリオに、お客様のニーズと期待が十分に反映されているか。
  • 対応する機能セットを選択するにあたり、Office ユーザーにとって何が最も有益か。
  • ユーザー エクスペリエンスの設計にあたり、ユーザーの生産性の向上に役立つベストな設計は何か、またどのような改良が必要とされるのか。

製品サイクル全体を通して、ユーザー エクスペリエンスの研究者は上記の課題やこれ以外の多数の課題に取り組みます。基本的に、お客様とのやり取りを楽しみ、お客様から寄せられたフィードバックを製品に明確に反映させる必要があります。

一般に、ユーザーエクスペリエンス研究は、"使い勝手に関する研究" (私たちのチームでは "ラボでの研究" と呼んでいます) と見なされています。ラボでの研究を行う一方で、ユーザー エクスペリエンスの研究者は、世界中のユーザーから多様な手段を介してデータを収集しています。たとえば、認識に関する実地検証、複数のユーザーによるリモート研究、注視点追跡、実地調査、ワークショップ、フォーカス グループ、アンケートなどを行っています。

研究方法の決定

研究方法は、研究課題の内容と、その対応に要する時間によって決まります。たとえば、典型的なラボの研究では、ユーザー エクスペリエンスの研究者は、グループ内のユーザー エクスペリエンスの設計者と製品チームのプログラム マネージャーと緊密に連携し、機能設計に対する研究を繰り返し行います。私たちは、研究の参加者を Microsoft の社外から募り、ラボなどの小さな部屋に集まってもらいます。その部屋には、デスクと PC があり、参加者はそれらを使用してソフトウェアを操作します。ラボ内には、研究者や設計者、プロジェクト マネージャー、テスター、開発者が、研究対象のソフトウェアがユーザーのニーズを満たしているかどうかをモニターできるように、数台のテレビ カメラと 1 枚のマジック ミラーが設置されています。ODG では、ソフトウェアの使い勝手に影響する問題を見つけるために、こうしたラボでの研究を行っています。通常は、Office のリリースごとに、数千時間単位の研究を行います。

ラボ内で使用する装置のうち、私たちのお気に入りのツールの 1 つに、注視点追跡システムがあります。注視点追跡システムでは、ソフトウェアを操作しているユーザーが、操作中に何を見ているか確認できます。ユーザが画面のどこを見ているのかをマウス ポインターの動きから正確に捉えることは容易ではないため、注視点追跡システムは、リボンや Backstage などの新しい UI を作成するときに非常に有用です。以下の図は、初期のプロトタイプを使用して Backstage ビューに対して実施された、注視点追跡システムを利用した研究結果の 1 つ (左はヒートマップ、右は注視点プロット) を示します。

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左のヒートマップは、ソフトウェアの使用者が、何かを探すのにどこで多くの時間を費やしたかを示します。ユーザーが特定の場所をより長く見つめれば見つめるほど、また、特定の場所に視線が戻っていく回数が多いほど、ヒートマップでのその場所の色は熱く (赤く) なります。右の注視点プロットは、視線が特定の場所に到達するためにたどった経路を示します。

参加者が指示された操作は、最近使用したあるファイルを開くことでした。このタスクを正しく完了するために、参加者は、画面に表示された 3 つのウィンドウのうち中央のウィンドウに表示される、最近使用したドキュメント(MRU) リストの 3 番目のファイルを開く必要がありました。すべての参加者は、このタスクを正しく行うことができました。しかし、上の 2 つの図から、次のようなことが分かりました。つまり、参加者は最終的に正しいファイルの場所を見つけることができましたが、MRU にたどり着く前に、右側のウィンドウのテンプレート セクションをすみずみまで探すのに多くの時間を費やしていたのです。

この研究結果を受けて、私たちはデザインを再考しました。MRU とテンプレート セクションのそれぞれのタブは左側のナビゲーション ウィンドウに残したまま、MRU とテンプレート セクションを別々の場所に分けることに決めました。以下の 2 つの図で、これらの場所が現在はどのようなデザインになっているかを確認してください ([最近使用したファイル] と [新規])。

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とはいえ、注視点追跡システムは、お客様の操作方法に合ったソフトウェアを作成するために ODG が利用する多様な研究ツールの 1 つに過ぎません。他にも、広く研究材料を収集する方法として、Send-a-Smile フィードバックを導入しています。Send-a-Smile (SaS) に関する以前の投稿はお読みいただいたでしょうか。まだお読みになっていない場合は、ぜひご一読いただき、Send a smile を今日から使い始めることをお勧めします。

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Microsoft では、お客様のフィードバックを真摯に受け止めています。研究者は、1 週間に何時間も費やして、SaS ユーザー エクスペリエンス コメントを分析して傾向を突き止め、他のデータと照合して精度の高い結果を得ようとしています。たとえば、テクニカル プレビューで寄せられた SaS コメントを受けて、Outlook に次のような変更を加えました。

  • テクニカル プレビュー版では、送受信ボタンは、QAT (以下の上の図) と [送受信] タブに配置されていました。しかし、"見つけにくい" という SaS フィードバックに基づいて、IMAP または POP アカウントに接続したときには、送受信ボタンがリボンに移動するように改良されました (以下の下の図)。メモ: Exchange アカウントに接続したとき、送受信ボタンは [ホーム] タブにはありません。これは、新しいメールを受信したとき、Exchange サーバーがそのメールを Outlook にプッシュするため、Exchange 環境における電子メールの配信には送受信ボタンは関係ないからです。

テクニカル プレビュー版での送受信ボタンの位置

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次期リリースのベータ版での送受信ボタンの位置

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  • テクニカル プレビュー版では、非公開の予定のタイトルは To Do バーに表示されません。代わりに、単に [非公開の予定] というタイトルが件名行に表示されます (以下の左の図)。非公開の予定のタイトルを隠すこのオプションが Office 14 に追加されたのは、それが共通の機能要求だったからです。しかし、テクニカル プレビュー版のフィードバックが多数寄せられるようになると、かなりの割合を占めるユーザーが、非公開の予定の件名を表示するように望んでいることが判明しました。このフィードバックを受けて、ベータ リリース (以下の右の図) では、このオプションが既定で無効になるように変更しました (このオプションを有効にするには、[表示] タブに移動し、To Do バーをクリックして、[オプション] をクリックします)。

テクニカル プレビュー版での非公開の予定

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次期リリースのベータ版での非公開の予定

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  • Outlook で更新された機能のうち、最も多くの反響があったのは、スレッドの動作でした。テクニカル プレビュー版では、特定の種類スレッドをダブルクリックすると、新しいウィンドウではなく閲覧ウィンドウでメッセージが開くようになっていました。しかし、相当数のユーザー フィードバックによると、スレッドをダブルクリックしたときに、メッセージを常に新しいウィンドウで開くようにした方がよいということがわかりました。このフィードバックに基づいて、次回の Office 14 ベータ リリースでは、この動作が新しく実装されます。

ユーザー エクスペリエンス研究は世界規模の取り組み

米国と一部の Remote Development Center に研究者を擁している他にも、Microsoft には、仮想のマルチ ユーザー リモート研究を行う技術という強みがあります。この技術は、ODG のメンバーが開発したものです。私たちは、この技術を Virtual Research Lab (略称 VRL: 仮想研究ラボ) と呼んでいます。VRL により、100 人までのリモート参加者が同時に Microsoft のサーバーにログインし、指定されたタスクをソフトウェア上で実行することができます。この研究には、自宅やオフィス、またはインターネットにアクセスできる場所ならどこからでも、いながらにして参加できるため、参加者を米国に限らず世界中から募ることができます。この技術があれば、より短期間でより多くのユーザーからデータを収集したり、研究への参加者を増員することができます。これらのことは、Microsoft と、エンド ユーザーのお客様の両方にメリットがあります。

さらに、私たちは製品サイクルにおける検証時間を大幅に短縮するために、"Kitchen" と呼ばれるテクニックも使用しました。"Kitchen" とは 1 週間のイベントで、世界中のさまざまな企業から数人単位のグループが、ソフトウェアのワーキング ビルドで "遊ぶ" ために Microsoft のオフィスに集まります。通常、このイベントのために IT や開発者のコミュニティから技術者を招集し、初期ワーキング コードをベースにして実際的なソリューションを構築するように依頼します。Kitchen の参加者は、Office の新しいリリースに先立ってプレビュー版を操作し、この集中的な取り組み期間中に徹底的なフィードバックを提供します。また、参加者の懸案事項を理解し、疑問を解消できるように、参加者と Microsoft のエンジニアリング チーム (開発者、テスター、プログラム マネージャ、ユーザー エクスペリエンスの研究者と設計者、プロダクト プランニング、ユーザー アシスタンスなどで構成されています) とが直接対話する時間が多く設けられています。Kitchen は、製品リリース サイクルを通して何回か行われます。広範なリリースを行うベータ期間の前の初期段階でユーザーのフィードバックに対応し、ユーザーの要望とのずれを補うことができるため、このイベントは私たちにとって非常に貴重な機会となっています。

今後の投稿予定

前述したように、ここで紹介したツールやテクニックは、Office 開発サイクルを通してユーザーのニーズを理解するために使用する研究ツールのほんの一部に過ぎません。これらの説明をお楽しみいただけたなら幸いです。私たちが加えた改良はすべて、お客様のご協力によるものです。今後予定されている投稿では、ODG で使用している設計ツールと技法について説明します。ぜひご期待ください。お客様のご意見をお待ちしております。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

原文の投稿日: 2009 年 10 月 29 日 (木) 午前 12:04 投稿者: OffTeam

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これはローカライズされたブログ投稿です。原文の記事は、http://blogs.technet.com/office2010/archive/2009/10/29/ux-research-tools-and-techniques.aspx をご覧ください。


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