企業のブロックチェーン ネットワークを実現する Coco Framework を発表

執筆者: Mark Russinovich (CTO, Microsoft Azure)

このポストは、8 月 10 日に投稿された Announcing the Coco Framework for enterprise blockchain networks の翻訳です。

 

ブロックチェーンは、企業のデジタル改革の枠を超えて、サプライヤー、顧客、パートナーとの新たな共通プロセスを構築する革新的なテクノロジです。従来の業界や企業という境界線を越えてデジタルに資産を追跡し、共通のプロセスの中で安全かつ透過的にビジネスを行うことができます。ブロックチェーンを導入する企業は増加しており、新たな企業間のコラボレーションの機会や独創的な新しいビジネス モデルも続々と生まれています。

マイクロソフトは、お客様、パートナー様、ブロックチェーンのコミュニティと協力して、企業での活用に向け、ブロックチェーンのエンタープライズ対応を継続的に推進しています。マイクロソフトの使命は、この新しい秘密計算 (Secure Multi-party Computation) 技術にかかわる企業の成功を支援することです。そのために、台帳技術のスタートアップ、小売業者、医療機関、グローバル金融機関など、あらゆる企業が優れた共有ビジネス プロセスを構築できる、オープンでスケーラブルなプラットフォームとサービスを提供します。

各企業がビジネス ニーズに適したブロックチェーン テクノロジを模索する中、既存ブロックチェーン プロトコルの多くが、パフォーマンス、機密性、ガバナンス、処理能力といった重要なエンタープライズ要件を十分に満たせていないことが明らかになっています。これは、不特定多数の信頼度の低いアクターが参加できる制限の少ないパブリック型シナリオで、コンセンサスを得て機能するように設計されていることが原因です。だれでもトランザクションを監視できるよう暗号化を行わず、ネットワーク上の全ノードで全トランザクションを実行するしくみになっており、さらに、計算負荷の高いコンセンサス アルゴリズムを必要とします。このような保護対策では、パブリック ブロックチェーン ネットワークの整合性を維持することは可能ですが、スケーラビリティや機密性といった重要なエンタープライズ要件を犠牲にしなければなりません。

また、機密性を重視したパブリック ブロックチェーン プロトコルを採用したり、新たなプロトコルを構築したりする場合、システムの複雑化やパフォーマンスの低下など、その他のエンタープライズ要件を妥協せざるを得ません。

企業のブロックチェーン導入を促進

今回、機密性の高い大規模ブロックチェーン ネットワークを実現するオープンソース システム Coco Framework をご紹介します。主なエンタープライズ要件を満たすこのシステムは、企業の運用環境におけるブロックチェーン テクノロジ導入を促進できます。

機密コンソーシアム専用に設計されている Coco は、ノードとアクターが明示的に宣言および制御されます。また、すべてのエンタープライズ要件を踏襲した設計により、従来型の台帳構築に代わる新しいアプローチとして、安全性や不変性を犠牲にすることなく、企業が求めるスケーラビリティ、分散ガバナンス、高い機密性を実現します。

既存のブロックチェーン プロトコル、Intel SGX や Windows Virtual Secure Mode (VSM) といった Trusted Execution Environment (TEE)、分散システム、暗号化を活用することで、以下のような特性を持つエンタープライズ対応ブロックチェーン ネットワークを実現します。

  • データベースの速度に迫るスループットとレイテンシ
  • リッチで柔軟性に優れたビジネス固有の機密性モデル
  • 分散ガバナンスによるネットワーク ポリシー管理
  • 非決定性トランザクションのサポート

これらの機能を備えた信頼性の高い基盤に、既存のブロックチェーン プロトコルを統合することで、エンタープライズ対応の包括的な台帳ソリューションを構築できます。これにより、さまざまな業界における広範かつ拡張性の高いシナリオの実現や、ブロックチェーンを活用した企業のデジタル改革を可能にします。

既に、小売、サプライ チェーン、金融サービスなど、多様な業界が Coco の可能性を探っています。

「既存のサプライ チェーンの Dapp コードを Coco Framework でさらに高速に処理できるため、パフォーマンスが大きく改善されます。これなら、ブロックチェーンのエンタープライズ対応に対する小売業界のお客様の懸念を払拭できます。パフォーマンスを犠牲にすることなく、さらにデータ機密性を確保すれば、当社が思い描くスマート サプライ チェーンによるデジタル改革を実現できるでしょう」

- Mojix、グローバル リテール事業開発担当バイス プレジデント、Tom Racette 氏

エンドツーエンドの貿易金融ソリューションの設計、ブロックチェーンを使用したエッジ セキュリティの確保、Enterprise Smart Contracts を活用したバック オフィスの効率化など、Coco はあらゆるお客様のエンタープライズ要件を満たすことができます。マイクロソフトは、オンプレミスとハイパースケールのパブリック クラウドにおける一貫性、機能豊富な Azure エコシステム、共有データ層のブロックチェーン上に構築される幅広いアプリケーション、これらすべてを提供できる唯一のクラウド プロバイダーです。

オープンな取り組み

Coco は、オープン性とあらゆるブロックチェーン プロトコルとの互換性を前提として設計されています。マイクロソフトでは既に Coco と Ethereum の統合を開始しています。さらに J.P. Morgan Chase の Quorum、Intel の Hyperledger Sawtooth、R3 の Corda といったエンタープライズ台帳も、各社で Coco との統合に向けた取り組みが進められています。これを足掛かりに、今後さまざまな台帳との統合を検討する予定です。

「マイクロソフトの Coco Framework は、Ethereum などのスケーラブルで機密性の高い許可型のブロックチェーン ネットワークを実現できる画期的なフレームワークであり、多様なブロックチェーン システムが相互接続された新しい世界で重要な役割を担うでしょう」

- ConsenSys、創業者、Joseph Lubin 氏

Coco の発展には、ブロックチェーンのイノベーションに貢献している、多様で才能あふれるオープンソース コミュニティの協力が不可欠です。Coco は Azure と Microsoft Research の共同プロジェクトとして開始しましたが、多くのお客様やパートナー様からいただいたフィードバックを反映して成長を遂げています。Coco をオープンソース化すれば、当初の開発グループの範疇や想像力をはるかに超える発展が望めると考え、マイクロソフトは 2018 年初めにコミュニティへのソース コードの公開を決定いたしました。

Coco は、あらゆる台帳プロトコルとの互換性を前提に設計されており、クラウドかオンプレミスかを問わず、互換性のある TEE に対応したオペレーティング システムやハイパーバイザー上での動作が可能です。今までにない画期的なエンタープライズ シナリオに適応させるため、コミュニティで Coco にプロトコルをさらに統合して異なるハードウェアで試していただけるよう、柔軟性を重視しています。

業界内のブロックチェーンへの関心は高まる一方です。完全にエンタープライズ対応するまでには時間がかかりますが、マイクロソフトは今後もコミュニティと協力して、ブロックチェーンの開発と企業での導入促進に真摯に取り組んでまいります。

Coco の詳細については、テクニカル ホワイトペーパー (英語) および Microsoft Cloud の YouTube ページのデモ (英語) をご覧ください。GitHub の [Star] ボタンでプロジェクトをブックマークすることもできます。また、[Watch] ボタンを押すと、作業グループの動向や開発状況に関する最新情報の通知を受け取ることができます。