Hello Azure: マイクロソフトはいかに SAP をクラウドに移行したか

執筆者: Lukas Velush

このポストは、2018 年 2 月 20 日に投稿された Hello Azure: Unpacking how Microsoft moved its SAP workload to the cloud の翻訳です。

 

Microsoft 社内 SAP の Azure 移行プロジェクトのマネージャーである Hans Reutterと、2つの移行チームのリーダーである Sanoop Thrivikraman Nampoothiri および Ralitza Deltcheva

 
マイクロソフトは SAP アプリケーションに多大な投資をしています。その 895 億ドル規模のグローバルビジネスを支えるため、会計、人事、グローバルトレード、サプライチェーン、その他の様々な領域で SAP を使用しています。
 
この投資への挑戦として、当社は SAP ランドスケープ全体 – およそ 50 TB 規模 – の Azure クラウドへの移行を成し遂げました。最後に残ったもっとも重要なシステムを週末を利用して移行し、年単位の目まぐるしい旅を終えることができました。
 
「クラウドへの移行により、我々はコストの削減をすることができました。しかし、より重要なことは、これまでより俊敏で、革新的になることができたことです。」 Core Services Engineering and Operations (CSEO) で、Microsoft SAP のプログラムマネージャーを務める Mike Taylor は言います。「これは、我々のチームがインフラストラクチャの稼働状況について心配し続けることから解放され、イノベーションに集中できることを意味します。新しいことを試行し、学びながら、その学びをもって新しい方向に進むことができます。もし試したことがうまく行かなければ、すぐに中止して、別の何かを試すことができます。」
 
稼働状況に合わせた精緻なチューニング、夜間および週末のシステム停止、そしてもはや不要となった旧来型のプロセスからの離脱によるコスト削減により、Microsoft 社内の SAP 関連予算は、オンプレミスから Azure への移行により 10 %から 20 %削減できると見積もられています。
 
「我々は今、100 %クラウドの中にいます。Azure は信頼性の高いクラウドプロバイダーであり、我々の SAP ランドスケープはこれまででもっともセキュアになりました。」社がもつ大量の SAP インスタンスの管理担当の従業員が今手にしている新たなツールを説明しながら、Taylor は言います。「機械学習と AI を利用し、我々のランドスケープ全体に潜むデータから学習することができるようになりました。」

マイクロソフトは SAP 社とのパートナーシップについてコミットしています。Taylor は言います。SAP 社は公式に、すべてのハイパースケールクラウドプロバイダをサポートし、顧客が好むクラウドを利用できるようにする「マルチクラウド戦略」を採用しています。一方、SAP 社は最近、SAP 社自身がもつ多くのミッションクリティカルな SAP Business System を運用する基盤として Microsoft Azure を選択したことをアナウンスしています。
 

Azure への移行の実現

 
マイクロソフトの SAP チームは 2013 年から、社内の SAP システム群のクラウド移行を検討してきました。しかし、マイクロソフト社のサイズの SAP ERP システムを実行できるだけの十分な規模の仮想マシンが Azure に追加されたのは、つい昨年のことでした。クラウド移行をリードした、CESO のエンジニアリングマネージャである Hans Reutter は言います。

「単なるサイズだけの問題ではありません。複雑性の問題でもあります。」 顧客のより良い購買体験実現のため、複数の別々のエンタープライズスケールの購買プロセスがシームレスに連動している例を挙げながら、彼は言います。
 
「すべての本稼働ランドスケープは相互に行きかうトラフィックにより、それぞれ高度に依存しあっています。」
 
エンタープライズマーケットにおけるマイクロソフトのような規模の企業の SAP ランドスケープを実行可能な、より大きな仮想マシンへの需要に対応するため、Azure は M シリーズを開発しました。
 
「我々はたまたま M シリーズを待つ企業群の一員になりました。」移行を実施した CSEO エンジニアリングチームのマネージャーである Reutter は言います。「これは、我々自身のクラウド移行のために、まさに必要としていたものでした。」
 
Azure の M64s および M128s 仮想マシンを手にしたことにより、Reutter のチームはついに会社の最大かつもっとも複雑な SAP システムを Azure に移行することができました。(チームはより小さい仮想マシンを使用して、昨年中にほとんどのマイクロソフト社のランドスケープを移行していました。)
 
移行の実施方法を理解するためには、水平および垂直での思考が重要だと Reutter は言います。
 
「我々は、まずリスクの低いもの - もぎ取りやすい果実 - から開始しました。」Reutter は言います。「何か悪いことが起きたとしても、顧客に対してまったく影響のないサンドボックスシステムを最初に移行することにしたのです。」
 
これが基準となるレイヤーになります。その後、次に重要度の低いレイヤー、さらにその次、その次といったように、チームは最終的に最重要のものに行きつくまで、レイヤーをあげていきました。これが水平アプローチです。「もし何かを間違えたとしても、ほんとうに重要なシステムに到達する前に、すぐにそのミスに気づくことができます。」Reutter は言います。
 
チームが作成した移行スクリプトについて、何か問題を見つけたとして、基準となるレイヤーで解決してしまえば、問題が深刻になる前にすべての状況を理解することができます。」
 
さぁ、次は垂直アプローチです。
 
チームはいくつかのシステムにおいて、エンドツーエンドの垂直的テストおよび移行を実施しました。開発環境から、本稼働環境まで、すべて一度に。「我々はギャップや想定外のことが発生しないように、すべてのスタックのテストを行いました。」 Reutter は言います。
 
二つの方向での正しいアプローチにより、ミッションクリティカルシステムをスムーズに移行することができました。「まず小さなものの移行から手を付けましょう。」 Reutter は言います。「当初は大切な宝石を安全なところに保管しておきたいものです。」 移行が問題なく進んでいき、スムーズに事が進めば、宝石を持って行っても安全だとわかってきます。

 

隗より始めよ

 
SAP システムの Azure への移行を検討する顧客から、Juergen Thomas はいつも同じ質問を聞いていました。
 
どんな質問かって?
 
「マイクロソフト社内の SAP は Azure 上で動いているのですか?」
 
SAP ユーザーのクラウド移行をサポートするチームのマネージャーである Thomas は、今や明確に「Yes」と答えることができることを喜んでいます。また、より重要なことは、彼は顧客から必ず次に受けることになるこの質問にも良い回答をすることができるのです。その質問とは、「どのようなやり方で移行したのですか」です。
 
「顧客はすぐに詳細を知ろうとします。これは良いことです。」彼は言います。「マイクロソフトが再び先頭を切って、多くの会社の模範になるということが重要なのです。」

マイクロソフトの ERP のクラウド移行のストーリーは Azure の重要なショーケースとなり、Azure が最大かつ最も複雑な SAP インスタンスを扱うことができることの証明になると、Thomas は言います。
 
「マイクロソフトの Azure プラットフォームが、ここまで複雑な SAP プロットフォームをそのインフラ上で実行し、維持できることの証明になる。」彼は言います。「我々はこれから、顧客へのソリューション紹介の場やカンファレンスにおいて、このことについて伝えていきます。それは、我々のイメージキャラクターのようになるでしょう。我々自身のバックエンドのビジネスプロセスを Azure 上の SAP で運用していることは、そもそも SAP を使っていない、または自身のクラウド上で SAP を運用していない競合の会社に対する大きな差別化要素になります。」
 
これから数か月のうちに IT Showcase website を見に来てください。うまく行ったことだけでなく、うまく行かなかったことについてもきちんとご紹介する、ショーケースストーリーをこれから開示する予定です。6月の米国の SAP Super ユーザグループカンファレンスでも、マイクロソフト社内の SAP エキスパートが登壇し、多くのことをご紹介する予定です。

 

SAP のクラウド移行 Tips

 
貴社の SAP システムのクラウド移行で、最初に考慮すべき 4 つのポイントを記載します。
 
Clean out your closet: クラウドへの引っ越しは使っていないものを捨てるチャンスです。古いオンプレミスサーバーを保持している場合、そこに古いものをどれくらい塩漬けしていても、問題は顕在化しません。一方クラウドでは、古いゴミを運び続ければコストはすぐに上昇してしまいます。
 
Avoid disasters: クラウドへの移行が終わったら、仕事をきりあげたくなる誘惑にかられます。でも、ちょっと待ってください。バックアップ計画を確認する必要があります。Azure には世界中に 42 のリージョンがあります。物理的にデプロイした場所から地理的に隔離されたリージョンにシステムをバックアップしておくことを忘れないでください。こうすることで、あなたの地域で何か問題が起こったとしてもシステムを稼働し続けることができます。
 
Use the cloud you already pay for: コスト削減のためにも、できる限りクラウド版の SaaS 製品に移行することを検討しましょう。多くの会社が SharePoint や Dynamics のような製品を使っており、そのクラウド版製品のサブスクリプションを保持しています。このような場合のベストの移行シナリオは、オンプレミスシステムの Azure 上への単純移行ではなく、SharePoint Online や Dynamics 365 といった SaaS 製品に移行することです。
 
Snooze so you don’t lose:  クラウドのもっとも大きなメリットを活用してコストを下げましょう。チームメンバーがシステムを使用しない、夜間や週末にシステムを止めてしまいましょう。

 
 

この記事の翻訳は Microsoft Global Black Belt SAP on Azure TSP の池本が担当しました。