ハイブリッド クラウド戦略の成功のカギは、優先順位付け

執筆者: James Staten (Chief Strategist, Cloud + Enterprise)

このポストは、4 月 28 日に投稿された Prioritization is key to a successful hybrid cloud strategy の翻訳です。

 

クラウドに対する CIO の意識は、この 3 年間で劇的に変化しました。「パブリック クラウドは安全ではない」と言っていたころから、「すべてのものを 3 年以内にパブリック クラウドに移行する」と、180 度見解が変わったのです。大きな志を持つことは大切ですが、これを実現するのは多くの企業で難しく、とてもよい戦略とは言えません。より現実的なのは、しばらくの間ハイブリッド環境を活用してみることです。そこでパブリック クラウドの適切な使用方法を見きわめ、それから移行に移すのです。

自社データ センターをクラウドに拡張すれば、コスト削減 (英語) になり、リソースに世界中からアクセスできるようになります。また、強力な新機能を手頃な価格で安全 (英語) に使用することもできます。5 年ほど前には、クラウドは IT エグゼクティブから懐疑的な見方をされていましたが、今では IT 戦略とビジネス戦略の両面で重要な要素であると認識されています。しかし、数百も数千もあるアプリケーションを一気に自社データ センターから移行すれば、逆にコストもリスクも高くなってしまう恐れがあります。クラウドには多くのメリットがありますが、それでも一部のアプリケーションやデータは、当面の間 (あるいは永続的に) オンプレミス環境に残しておいたほうがよい場合もあります。たとえば、1986 年から活用している使用頻度の高いカスタムの SAP アプリケーションであれば、クラウド ネイティブなものに作り直すより、そのままオンプレミス環境に残しておくほうが簡単です。また、コンプライアンスや規制の観点から、ローカルで管理しなければならないデータというのも存在します。

Enterprise Cloud Strategyこうしたケースに該当しない場合でも、企業は少なくともどのアプリケーションを先に移行し、どのアプリケーションを後に移行するのかという「優先順位」を決める必要があります。マイクロソフトの元 IT CTO でテクノロジ ソート リーダーの Barry Briggs (英語) と、フィールド クラウド ソリューション アーキテクト担当エグゼクティブの Eduardo Kassner は、共著の『Enterprise Cloud Strategy (企業のクラウド戦略)』(Microsoft Press で無料提供) の中でこのことについて説明しています。この本では、Azure への移行を進めている実際のお客様の例を紹介しており、ほとんどの企業にとって最適なのは、一部のアプリケーションを自社データ センターに残し、それ以外をクラウドに移行することとしています。

ポートフォリオの優先順位付け: 何から始めればよいか?

クラウドへの移行に関する質問の中で、最も多いのが「何から始めればよいのか?」というシンプルなものです。

Briggs と Kassner の著書では、アプリケーションの分類と特性を判断する方法が示されています。中でも特に、以下を検討することを重要としています。

  • 柔軟性に対するニーズ : アプリケーションには使用パターンがあり、多くはオンデマンドでリソースを割り当てることが適しています。こうした場合にクラウドのコスト メリットが活きてきます。たとえば、従業員の業績評価アプリケーションの場合、使用されるのは年に 2 回ほどですが、その時期にはかなり高い頻度で使用されることが考えられます。このようなアプリケーションは、「動的にスケールアウトできる」というクラウドの特性と非常にマッチしています。使用量が増えればコンピューティング リソースを追加でき、時期が終わればリソースを縮小できます。つまり、使用した分のみ料金を支払えばよいのです。
  • サイズと相互接続性 : クラウドに移行しやすいアプリケーションは一般的に、なるべく小さく、かつ他のアプリケーションとあまり統合されていないものです。たとえば、先ほど言及した 1986 年から活用している大規模な SAP ERP アプリケーションよりも新しいアプリケーションのほうが、独立性が高く小規模です。
  • データの機密性 : 先にクラウドに移行するのは、機密性の低いデータを扱うアプリケーションにすることをお勧めします。またこの作業では、社内の情報セキュリティ チームやリスク管理チームにも協力を仰ぐようにしてください。企業全体のビジネスへの影響度を「低」、「中」、「高」に分類するデータ分類スキーム (英語) を策定するのもよいアイデアです。マーケティング サイトや製品情報サイトなどは早期に移行するものの候補とし、顧客の住所、社会保障番号、メールアドレスなどの個人情報を含むアプリケーションは、情報セキュリティ チームやリスク管理チームの確認を受けた後に移行するとよいでしょう。

ここでは、お客様のエコシステムをお客様自身で分析していただけるようにいくつかの側面についてご紹介しました。より詳しい推奨事項やその他情報については、『Enterprise Cloud Strategy』をご覧ください。

また、ぜひこの機会に SaaS アプリケーションの活用を検討して、コストの大幅削減を実現していただければ幸いです。メールやコラボレーション機能、CRM ソリューションなどといった企業の競争差別化に影響しない汎用機能は、SaaS に移行する有力な候補となります。

また、移行に関連するリソースは、テクノロジ、セキュリティ、リスク管理、財務、運用、管理、人事といった各チームから集め、それらが一丸となって実施可能な包括的なプランを策定し、実行に移す必要があります。『Enterprise Cloud Strategy』には、クラウド戦略チームが移行に関連するこれらのリソースをどのように集めればよいかに関するガイダンスや推奨事項も記載されています。ぜひご一読ください。

次回は「ハイブリッド クラウド」への確実な移行方法について説明します。さまざまな場所にホストされているアプリケーションを混在させてうまく活用する方法や、高度に統合されたエコシステムでコラボレーションする方法などを紹介する予定です。