顔の表情から読み取れる心理 ~ 人工知能が古代の仏像に秘められた感情を読み解く


Geoff Spencer
Microsoft Asia ライター
2019 年 2 月 19 日


日本の阿修羅像が表しているのは喜びなのか、悲しみなのか? 研究者らが AI を利用して解明する

阿修羅像の 3 つの顔は何世紀にもわたって、古代日本の都、奈良の興福寺から人々を見守っています。しかし反対に、信者や学者が阿修羅像を見つめる時、彼らの目には何が映るのでしょうか?

あるいは、少なくとも彼らは何が見えると考えているのでしょうか?
1,200 年前に作られた、6 本の腕と 3 つの顔を持つ、背が高くスリムな仏像彫刻の傑作は、信仰の対象として崇拝され、芸術作品として賞賛されてきました。正式に国宝にも指定されています。しかし、西洋人が長い間、モナリザの謎めいた微笑みを不可解に感じてきたように、日本人は阿修羅像の微妙な表情に不思議な魅力を感じてきました。

奈良の興福寺
奈良の興福寺

現在、研究者らは阿修羅像などの貴重な仏像を理解するための新しい方法を開発し、人工知能 (AI) ツールを利用して芸術作品の謎を解き明かしています。

例えば、阿修羅像が表しているのは喜びなのか悲しみなのかという疑問に関しては、結局それは見方次第で、右からみると悲しく見え、左から見ると喜んでいるように見えます。また、奈良大学文化財学科の関根俊一教授によると、阿修羅像の年齢は顔つきから 23 歳と推定できます。

奈良大学文化財学科 関根 俊一 教授
奈良大学文化財学科
関根 俊一 教授

昨年の大半を通じて、関根教授と 18 人の学生チームは Azure Cognitive Services の Face API を利用して、阿修羅像を含む 200 体以上の古代の仏像の写真画像を分析しました。Face API は広告や娯楽、チャットボットなどで活用が進む AI ツールです。

奈良大学のプロジェクトでは、事前に AI システムに機械学習を施して、怒り、軽蔑、嫌悪感、恐怖、幸福、中立、悲しみ、驚きの 8 種類の人間の感情を判別できるようにしました。

この技術を利用することで、研究者たちは信者などが何世代にもわたって行なってきた主観的な解釈を退け、仏師が彫刻を作った時に本当に伝えたかったことを明らかにすることができました。

「こうした仏像は宗教的な信仰の対象ですので、礼拝者各自の精神や感情の状態によって異なる表情に見えるのです」と関根教授は説明します。

「私たちは、宗教的な場で崇拝の対象として祀られる前に、仏師が仏像をどのように制作したのかを調べたいと考えました。つまり、仏師がモデルとした人間の表情はどのようなものであったかを把握したいと思ったのです」

伝統的に、仏像は年齢や感情を描写するものではないとされており、守護神を除いて性別もありません。
「仏師が仏像に人間の表情や感情を与えないようにはっきりと命じられている場合もありました。仏の姿を人間とは明確に異なったものとして具現化するためです」と関根教授は説明しています。

伝統的に、仏像の顔貌は「無表情」なほど「完璧」になると考えられています。それにも関わらず、仏師は当時の嗜好やスタイル、制作依頼者の願いに影響を受けることが多かったと学者たちは考えています。例えば、喜びの表情が流行であった時代もあれば、怒りの表情が好まれる時代もありました。

奈良大学のチームは学術的な客観性を求めて努力する一方、このプロジェクトを取り巻くデリケートな問題についてもよく理解していました。そして、このことが、AI を研究ツールに選んだ理由の 1 つになっています。

阿修羅像の表情を分析するAIシステムのスクリーンショット
阿修羅像の表情を分析するAIシステムのスクリーンショット

「このような芸術作品を研究する場合、研究者が宗教的な偶像を判断する必要が生じることもあります。それによって、多くの人が超えてはならないと考えている一線を超えてしまうことがあるかもしれません」と関根教授は説明します。

「人間が仏陀を判断するのは不謹慎だと人々が考えるならば、そのプロセスを AI に任せることで、そのような判断を客観化し、『無機的』にすることができるかもしれません」

このプロジェクトの目的は「仏教の美を再確認する方法を人々に提供する」ことでした。そして、新しいデジタル技術はこれからますます文化研究で活用されるようになるだろうと関根教授は考えています。

「仏教と AI などの現代技術を組み合わせる取り組みは、徐々にではありますが出現し始めています。私たちは、テクノロジーを通して仏教に取り組む新しいアプローチは、特に若い世代に仏教の魅力を伝える重要な方法だと考えています」

チームは、この研究の成果を活かして、人々が自分の顔写真をアップロードして同じような表情を持つ仏像とマッチさせることができる日本語のウェブサイトを作りました。これは、21 世紀の信者が古代芸術と個人的なつながりを築くことができる1つの方法です。

[原文] What’s in a face? Artificial intelligence deciphers the emotional mysteries of ancient Buddhist statues

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