【先駆け! AI 塾】分析・自動化だけじゃない! AI で新たな価値創出

「先駆け! AI 塾」ブログ
本シリーズでは、AI を "誰にとっても身近なもの" と捉え、あらゆるビジネスを発展させ、人々の生活をより豊かにするための「ツール」として活用していくための情報を発信していきます。

 

Chapter 1-4: 分析・自動化だけじゃない! AI で新たな価値創出

最近、世界的なキーワードとして「第四次産業革命」という言葉が話題になっています。蒸気機関の第一次、電力による大量生産が可能になった第二次、コンピューターとインターネットが台頭した第三次に続く第四の波。この革命を起こすものとされるのが AI と IoT です。少々大げさな話にも聞こえますが、 AI は産業界だけでなく、社会全体の仕組みをも根本から変える可能性を秘めています。本ブログではこれまで 3 回にわたり AI のビジネス活用を考えてきましたが、最終となる今回は、AI 導入によって生まれる新たな価値について、IPA (独立行政法人情報処理推進機構) の古明地 正俊 (こめいち まさとし) 氏にご意見をいただきながら検証します。

ビジネスにおいて、AI でできることとは結局何なのか?

日々の生活の中で、AI スピーカーやロボットなど、AI にまつわるさまざまな報道や商品を目にしますが、結局のところ、私たちのビジネスにおいて AI を導入して「できること」とは、いったい何なのでしょうか。
調査結果を見ると、AI で実現したい業務効率化の項目は「分析」と「業務自動化」が上位になっています。どちらも AI が得意とする仕事ではありますが、AI の領域はそれ以外にも多岐にわたります。

現在、開発が進むものとしてまず挙げられるのが「自動運転」の分野です。刻々と変わる周囲の状況を把握しつつ、瞬時の判断が求められる運転操作が AI にできるのかに注目が集まっています。製造業では画像認識技術を用いた製品検査や、生産設備の故障予知といった先進的な活用が始まっています。医療の分野でも AI を導入する動きが活発です。中でもディープラーニングの活用による画像診断の精度向上は、医学の進歩に重要な役割を果たすものとして期待が高まっています。

比較的 AI に馴染みが薄いと思われていた分野でも導入例が増加しています。たとえば農業では作物の生育管理に AI を活用し、これまで生産者の経験と勘に頼っていた農作業の効率化に取り組んでいます。また、小売業では店員に代わって接客を行うロボットを見かけるようになり、売り上げ予測を AI で行うなどの事例も増加しています。金融業では与信審査や株価予測の AI 化が進み、政府や関係省庁が発表する資料を AI が分析して景況感を示す仕組みが登場しました。
このように、分野を問わずあらゆる業種で AI 活用が進められている状況です。

ただし、一方では AI 導入に消極的な人も相当数存在するのが実情です。人のさまざまな知的活動が AI で可能になる一方、この多様性が AI を複雑で、難解なものにしているとも言えるでしょう。これについて古明地氏は次のように分析します。「ここ数年で AI の認知度はかなり上がりましたが、同時にバズワード化が進んでいます。漠然と “すごいものだ” と思うのではなく、”AI で何ができて何ができないのか?” “導入に際してどれだけのメリットや課題があるのか?” を具体的に知ることが大切です。」

「新価値創造」に向けて解決すべき課題とは?

では、AI 導入によって生まれる新たな価値について考えてみましょう。たとえば売上データ分析に AI を活用するケースでは、結果を製品・サービスの開発やマーケティングに役立てることで、業務効率化以外の新たな価値が創造されます。調査結果※1を見ると、AI 導入済み企業では 93% が新事業や新サービスの創造について「そう思う」と回答し、高い可能性を感じていることがわかりました。

これについて古明地氏は、「すでに AI を導入している企業は、その効果や課題について事前にある程度理解しているケースが多いです。現状に問題があっても試行錯誤を繰り返しながら改善し、ゆくゆくは価値に結びつけようという意識、結びつけられるだろうという感触を持っている。これに対して未導入の企業では、AI に従来の業務システムのような “即効性” を求める傾向が強いと言えます」と指摘しました。

また、中には AI を導入した企業から「期待したほどの効果が得られない」といった声を聴くこともあります。もし AI を学習させるデータに誤りがあったり、業務内容に合わせた改善を怠ったりすると AI は能力を発揮できず、最悪の場合、誰も使わず放置されることにもなりかねません。新人教育の原則にならい、AI も根気よく、着実に育てていく姿勢が求められます。

 

AI を活用した生産性向上の事例紹介

ここまで AI 導入がビジネスにもたらす効果について考えてきましたが、一口にビジネスと言っても多くの業種、職種があり、期待されるニーズもそれぞれ異なります。そこで、AI による「手作業の効率化」をめざしたユニークな取り組みを紹介します。
https://customers.microsoft.com/en-us/story/kindai-university-azure-higher-education-japan-toyota-tsusho-jp

「近大マグロ」の養殖で知られる近畿大学水産研究所では、豊田通商、日本マイクロソフトと共同で稚魚の選別を行うシステムの実証実験を行っています。従来の作業は水槽からポンプで吸い上げた稚魚を目視で確認していましたが、ここに AI の画像識別能力を活用し、監視カメラで撮影した画像から稚魚の成育状況を判断する仕組みを開発しました。

「吸い上げる稚魚が多すぎると作業が追い付かない」
「少ないと生産性が下がってしまう」
これまで選別作業の現場では、専任担当者がポンプの流量を手作業で調整し、稚魚の数を増減していました。今回の実験では AI の画像解析や機械学習の活用によって最適な稚魚数を算出し、ポンプの流量調節を自動化しています。同研究所では将来的に選別作業をすべて自動化し、スタッフをより高度で専門的な業務に配置したいと考えています。水産業と AI という、これまであまり馴染みのなかった両者が結びつくことで、大幅な生産性向上の実現につながりました。

「AIの民主化」をめざして

「AI の民主化」を実現するためには、まだ解決しなければならない課題があります。AI 導入企業に対し、AI の導入・活用に関する課題感について質問した結果では、AI 導入済であるものの活用しきれていない企業では、人材育成が上位に挙がりました。古明地氏はこの結果を次のように考察します。
「AI を活用するためには専任の担当者をはじめ、研究開発、実証実験などに携わる人材が必要ですが、日本は欧米に比べてその数が圧倒的に少ない状況ですので、今後は一層人材育成に力を入れるべきだと思います。また、ユーザーに AI ソリューションを提供する開発会社もまだまだ国内では少数であり、スタートアップも欧米に比べて極端に少ない状況です。AI ソリューションを提供できる企業を増やすことも、あらゆるビジネス パーソンが AI をより身近な存在に感じられる結果につながると考えています」

 


4 回にわたってお届けした「先駆け! AI 塾」の第 1 章では、AI を自身のビジネスにかかわるものして具体的なイメージができないという方に向けて、より身近に、あらゆる人の生活やビジネスを飛躍させるものであるということを発信してきました。
日進月歩で進化を続ける AI ですが、その役割は「人を助けること」にあります。みんなの AI ブログでは、これからもマイクロソフトがめざす「AI の民主化」を実現するための取り組みや、さまざまな分野で活用される最新 AI 技術に関する情報を発信していきます。

※1 リサーチ内容: 「AI に関する動向調査」(調査主体 日本マイクロソフト)
ビジネス パーソン/500 サンプル回収 インターネット調査(2018 年 3 月実施)
※ 記事中のグラフについて、パーセンテージの表記合計が四捨五入により100%にならない場合があります

 

2018 年 12 月 11 日 (火) に、IPA (独立行政法人情報処理推進機構) から「AI白書2019」が刊行されました。本書では、AI の技術動向や、国内外の各産業・分野における活用事例、社会実装に向けての課題などが総合的に解説されています。また、日本の各産業での AI 実装化推進のため、日本の経営者層に向けた、業界有識者による対談記事なども収録されています。

「AI白書2019 ~企業を変えるAI 世界と日本の選択~」 印刷書籍版

発行日:2018 年 12 月 11 日

定価:3,600円 (消費税別)

発行:株式会社角川アスキー総合研究所

発売:株式会社KADOKAWA

ISBN:978-4-04-911014-2

Web:https://www.ipa.go.jp/ikc/info/20181030.html

 

取材協力
古明地 正俊(こめいち まさとし)氏
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)イノベーション推進部部長。東京工業大学修士課程修了後、大手メーカーの研究部門においてパターン認識の研究に従事。2001 年野村総合研究所に入社し、IT アナリストとして先端テクノロジーの動向調査および技術戦略の立案などを行う。現在は IPA において IT 社会の動向調査・分析を行い、「AI白書」などの形で情報発信している。
主な著書:
図解 人工知能大全 AIの基本と重要事項がまとめて全部わかる(SBクリエイティブ) AI(人工知能)まるわかり (日本経済新聞出版社)