【先駆け! AI 塾】「AI は本当に仕事に使えるのか?」、改めて考えてみよう


 

「先駆け! AI 塾」ブログ
本シリーズでは、AI を "誰にとっても身近なもの" と捉え、あらゆるビジネスを発展させ、人々の生活をより豊かにするための「ツール」として活用していくための情報を発信していきます。

Chapter 1-2: 「AI は本当に仕事に使えるのか?」、改めて考えてみよう

ビジネスシーンで重要なトピックスになっている「働き方改革」。長時間労働の是正、生産性向上、人手不足の解消など、日本の企業で働く人々が抱えるさまざまな課題の解決に向けた動きが本格化しています。その中で、実現の切り札として期待が高まっているのが AI の活用。極端な話、「考える力」を持ったコンピューターが人に代わってあらゆるデスクワークをこなすことができれば、これらの課題は一気に解決するはずです。

しかし、現実はどうでしょう? AI 導入は着実に進んでいると言われていますが、その成果を公表しているケースは多くはなく、しかも一部の大企業に限られているという印象が否めません。実際のところ、AI はどの程度仕事に使えるものなのか、単なる「流行」の域を出ないのか。本記事の掲載に先立って行われた調査結果 (※1)から、AI 研究のスペシャリストである IPA (独立行政法人情報処理推進機構) の古明地 正俊 (こめいち まさとし) 氏と一緒に考えていきます。

AI で解決が期待される「ビジネスシーンの課題」とは

まず、現在のビジネスシーンにはどのような課題があるのか、その内容を改めて調査した結果 (※2)では、人材不足について「非常にあてはまる」「ややあてはまる」と回答した企業がトップとなりました。かつて 1950 ~ 70 年代の高度成長期、人材不足は「好景気、盛業の象徴」とも言われましたが、最近では人材不足を主な原因とする倒産が過去最多レベルに達するなど、深刻な社会問題になりつつあります。

次いで多かったのが「人為的ミスが起こりやすい」という問題。たとえ経験豊富なベテランでも、ミス発生をゼロにするのは不可能です。しかし、ミスが増えていると感じる人が多いのには、いくつか原因があるようです。たとえば、業務が多様化、複雑化していることや、ミスを発見したりチェックしたりする仕組みが確立されていないことなどが挙げられます。

そして第 3 位は「業務が属人化されている」という問題です。これはいわゆる「団塊世代」の社員が定年時期を迎えた 2000 年代に表面化したテーマですが、それまで彼らが積み重ねてきたノウハウがうまく継承されず、業務が混乱、停滞するのではという心配が根底にありました。実際にはいきなりパニックに陥るといった状況にはなっていませんが、個々の社員の能力に依存することの問題点が浮き彫りになり、早急な改善が求められている状況です。

 

AI 導入済み企業の 9 割が効率化を実感

これらの問題を解決するためには詳細な分析と継続的な取り組みが必要ですが、解決の近道として近年注目されているのが AI です。近道とされる理由はさまざまですが、今回の調査結果を当てはめてみると、その理由が見えてきます。

  1. 人材不足: 人に代わって AI が作業することで、より少ない人数で業務継続が可能
  2. 人為的ミス: 「疲れを知らない」 AI 導入で、不注意や疲労を原因とするミス発生の危険が低下
  3. 業務の属人化: ベテランのノウハウを AI に学習させることで、個人に頼らない業務遂行を実現

一見すると、まさに「いいことずくめ」の印象ですが、古明地氏はこれに対して疑問を示しています。「確かに AI が能力を発揮できる分野は多岐にわたりますが、AI の導入効果が得られる分野はまだ限定的です。また導入に際しては、実証実験などを通じて、機能やコスト対効果などの有効性を確認する必要もあります。」と述べました。

では、実際に AI を導入している企業では、その効果についてどう捉えているのでしょうか。「現在の業務に AI を取り入れて効率化できていますか」という質問に対して、「そう思う」「ややそう思う」と答えた企業は 91% で、導入効果を実感しているケースが非常に多いことがわかりました。古明地氏はこの結果について「効果を実感している企業の多くは、事前に導入目的と活用する業務をきちんと選定していると思われます。AI は漠然とした課題解決の手段ではなく、”個々の業務にどれだけ役立つか” を意識して導入を考えるべきでしょう」と指摘しました。

 

期待する内容が「わからない」理由は何か

一方、「AI の業務導入で期待することは何ですか?」という質問に対しては、「生産性向上」「コスト削減」「商品改良・企画」といった回答を寄せる企業が多くなっています。ここで気になるのは、AI 未導入の企業で「(期待先が) わからない」という回答が目立っていることです。「期待していない」と言うならまだしも、わからないという言葉の裏には、いったい何があるのでしょうか。

古明地氏はこの点について「AI への理解がまだ十分に得られていない証だと思います」と語ります。第 1 回の記事でも指摘されたように、AI は最先端のテクノロジーとして注目されるあまり、「何だかわからないけれど、とにかく ”すごいもの”」のように漠然とした「バズワード」になってしまい、実際に何ができるのか、どう活用できるかについては、まだまだ理解が進んでいない状況と言えるでしょう。調査結果を見ても、たとえば「商品改良・企画」や「新事業やサービスの創造」、「営業力向上」といった具体的な業務に対する期待は導入、未導入での格差が大きく、とくに未導入の企業が AI の業務導入に現実的なイメージを持てていないことがわかります。

また、「どんな業務で AI を取り入れてみたいですか? (取り入れていますか?)」という問いに対しては、「分析」と「業務自動化」が上位となっています。これらはともに AI が得意とする領域ですが、注意したいのは導入済みの企業が「分析」をトップに挙げているのに対し、未導入企業では「業務自動化」が最大になっていることです。古明地氏は、この逆転現象が AI に対する「理解度の差」を表しているのではないかと分析します。「導入済み企業は実際に投資し、導入し、運用していますから、経験とノウハウを持っています。IT ベンダーから情報を得る機会もあるでしょう。一方、未導入企業は AI に何ができるのか、AI に適した業務が何なのかまでは、まだあまり具体的に理解していないため、もっともイメージしやすい、単純作業の自動化を挙げているのではないでしょうか」と語りました。

業務自動化については最近、オフィスの事務処理を自動化する RPA (ロボティック・プロセス・オートメーション) が話題になっていますが、RPA の仕組みは AI を使わなくても運用可能で、「RPA=AI」ではありません。これは AI がバズワード化したことの弊害とも言えますが、導入に際してはまず「AI とは何か?」「AI を使って何ができるのか?」という基本を十分理解しておくことが重要です。

 

まずは身近な業務の効率化にトライ

ここまで、ビジネスへの AI 導入について考えてきましたが、「敷居が高くて、難しそう」と思われた方も多いのではないでしょうか。実は、その抵抗感が AI のバズワード化をさらに強めてしまっているのです。未知のもの、正体不明なものに警戒心を抱くのは自然な感情ですが、AI 導入のハードルは年々低下していて、潤沢な予算を使える大企業だけのものではなくなりつつあります。

たとえば、2018 年 11 月に発表された、Power BI の新しい AI 機能は、高度なプログラミング知識は不要で、より多くの高性能な AI が利用できます。エンジニアではないビジネスユーザーが、簡単かつ直感的に AI を活用し、その効果を実感できるようになってきているのです。(※3)

「企業の AI 導入成功のポイントは、技術導入に際しての課題をきちんと理解した上で、効果が得られやすい業務から段階的に導入することでしょう」と古明地氏はコメントしました。これは、AI が何にでも使える「魔法の杖」ではないことを示しています。センセーショナルな報道に惑わされることなく、冷静な視点で自社のビジネスに役立てる計画を策定しましょう。

※1 リサーチ内容: 「AIに関する動向調査」(調査主体 日本マイクロソフト)
ビジネスパーソン/500サンプル回収 インターネット調査(2018年3月実施)
※2 記事中のグラフについて、パーセンテージの表記合計が四捨五入により100%にならない場合があります
※3 参考: Announcing new AI Capabilities for Power BI to make AI Accessible for Everyone
https://powerbi.microsoft.com/en-us/blog/power-bi-announces-new-ai-capabilities/
 

2018 年 12 月 11 日 (火) に、IPA (独立行政法人情報処理推進機構) から「AI白書2019」が刊行されました。本書では、AI の技術動向や、国内外の各産業・分野における活用事例、社会実装に向けての課題などが総合的に解説されています。また、日本の各産業での AI 実装化推進のため、日本の経営者層に向けた、業界有識者による対談記事なども収録されています。

「AI白書2019 ~企業を変えるAI 世界と日本の選択~」 印刷書籍版

発行日:2018 年 12 月 11 日

定価:3,600円 (消費税別)

発行:株式会社角川アスキー総合研究所

発売:株式会社KADOKAWA

ISBN:978-4-04-911014-2

Web:https://www.ipa.go.jp/ikc/info/20181030.html

 

取材協力
古明地 正俊(こめいち まさとし)氏
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)イノベーション推進部部長。東京工業大学修士課程修了後、大手メーカーの研究部門においてパターン認識の研究に従事。2001 年野村総合研究所に入社し、IT アナリストとして先端テクノロジーの動向調査および技術戦略の立案などを行う。現在は IPA において IT 社会の動向調査・分析を行い、「AI白書」などの形で情報発信している。
主な著書:
図解 人工知能大全 AIの基本と重要事項がまとめて全部わかる(SBクリエイティブ) AI(人工知能)まるわかり (日本経済新聞出版社)