【先駆け! AI 塾】AI は「ビジネスの味方?」それとも「仕事を奪う敵?」


 

まえがき: 「先駆け! AI 塾」ブログ連載スタート
AI ―― この、耳慣れたようでいて、実はよくわからないもの。
日進月歩で研究が進み、AI 開発者達がテクノロジーの最前線でしのぎを削る一方で、「すごそうだ」「便利らしい」という漠然とした印象はあるものの、それはまるで映画を観ているような、どこか遠いところの話だと感じている方が多いのも事実です。しかし、AI は一部の特別な開発者だけのものでもなく、限られた大企業だけのものでもありません。
「先駆け! AI 塾」と題した本シリーズでは、AI を "誰にとっても身近なもの" と捉え、あらゆるビジネスを発展させ、人々の生活をより豊かにするための「ツール」として活用していくための情報を発信していきます。

Chapter 1-1: AI は「ビジネスの味方?」それとも「仕事を奪う敵?」

人間の知的な行動をコンピューターが行う AI (人工知能) は、ここ数年、世界的なムーブメントとして関心が高まっています。人工知能の開発は、歴史は長いものの、当時のテクノロジーでは実現に苦労していました。ところがいま、テクノロジーの進展でコンピューターの処理速度が上がり、新たなアルゴリズムが生まれ、ようやく適正なコストでビジネス活用することが現実的になってきたのです。一方で、「AI は人から仕事を奪う」とか、「AI は人類にとっての脅威だ」といった否定的な声が上がっているのも事実。そこで本ブログでは最新のリサーチ結果※1をもとに、AI の現状と活用の可能性について考察していきます。

ビジネスでの活用が広がる AI

かつてコンピューターがそうだったように、AI もまた研究開発の領域を超えて、ビジネスシーンでの本格的な活用が広がりつつあります。具体例として挙げられるのは「ものづくり」、製造業での活用です。不良品検知や機器の故障予測など、これまで「人の目」や「ベテランの勘」に頼っていた作業を AI に行わせる事例が増加しています。これらは、生産現場で蓄積された膨大な情報を学習する仕組み (ディープラーニング) を活用するもので、人手不足問題の解決を図るためにも有効な手段として期待されています。

また、AI 活用の場として注目を集めているのが「医療」の分野です。病状を正確、かつ迅速に診断することが求められる医療の現場では、AI による画像診断の活用が急速に進んでいます。遺伝子解析や医薬品開発といった領域でも AI を導入する動きが見られます。

「金融」業界では今や業務のあらゆる場面で AI が使われ始めているといわれています。株取引や投資の分野では、すでに AI を用いた取引が金融機関のサービスとして提供されているほか、市場分析、予測といった場面でも広く活用されています。金融業界はもともと IT 導入に積極的だったことから、AI の持つ可能性にもいち早く注目していたと言えるでしょう。ほかにも農業、小売、物流、サービスなど、さまざまな業種で AI の導入が検討されています。

このような現状を見ると、AI が一時的なブームではなく、社会の仕組みをも大きく変える巨大なムーブメントになっていることは間違いありません。しかし、その一方で「お金がかかるだけ」とか「ビジネスには大して役に立たない」、さらには「AI は人間から仕事を奪う“敵”だ!」などといった否定的な声が上がっているのも事実です。そこで、ビジネスパーソンの皆さんが AI をどのように捉えているのかについてアンケート調査を実施しました。その調査結果を、AI 研究のスペシャリストである IPA (独立行政法人情報処理推進機構) の古明地 正俊 (こめいち まさとし) 氏と一緒にひも解いていきます。

IPA (独立行政法人情報処理推進機構) 古明地 正俊(こめいち まさとし)氏
 

どんな層が AI に興味を持っているのか

まず、「どんな層が AI に関心を持っているのか?」について、AI を業務に適応することに対して「とても興味がある」もしくは「興味がある」と答えた人の割合は「通信」、「金融・保険」、「製造」で64% となり、他の業種に比べて高い数値になりました。職種別では「システム開発・IT エンジニアリング」「製品・サービス企画」「マーケティング・広報」が多くなっています。これについて古明地氏は「AI によって自分の仕事における課題が技術的に解決できるかどうか。そして、AI が投資に見合う価値を創出するかが重要なポイントになっています」と指摘。先に紹介した通り、関心が高い業種は総じて AI 導入に積極的で、そこで働く人々にとって AI は身近な存在になっています。漠然と「役に立つだろう」と考えるだけでなく、自分の仕事に対する AI の適用イメージが具体的であれば、利活用に向けた行動につながると考えられます。


 

「AI が仕事を奪う」という誤解

次に、現在抱えているビジネス上の課題についての回答を見てみましょう。AI への関心が高い業種 (通信、金融・保険、製造) では、いずれも「業務の属人化 (特定の人にしか仕事の手順がわからない状況に陥ること)」が大きな課題となっています。仕事のノウハウを熟知した社員の退職や異動によって一気に効率が落ちてしまうといったケースが多く発生している中、コンピューターに仕事の手順やノウハウを学習させることで、特定の人に頼らない環境を作ることが求められていると思われます。最近大きな盛り上がりを見せている RPA (ロボティック・プロセス・オートメーション) は、主にデータ入力や書類作成など定型的な業務を自動化するものですが、今後 AI を活用することで、より複雑な業務、たとえばデータを分析してレポートを出力するといった仕事まで自動化できると考えられています。実はこれが、ここ数年さまざまなメディアで取り沙汰されている「AI は人から仕事を奪う!」という意見の出所にもなっているのですが、AI 開発のための学習データの整備や、分析の仮説構築などには人が介在する必要があります。ある部分では人に代わって業務をこなす存在になる可能性はありますが、「AI 導入=失業増加」と簡単に結び付けてしまうのは、やや早計なのではという印象があります。

 

「AI は一部の大企業のもの」という誤解

一方、AI の導入に興味を持つ人の割合と、所属する会社、組織の規模にはどのような関係があるのでしょうか。調査結果を見ると、従業員規模が大きくなるにつれて興味の割合も高くなっていることがわかります。この傾向について古明地氏は、「投資に見合うリターン」と、「AI を利用する目的」の部分で違いがでているのではないかとの見方を示します。「企業にとって、AI への投資がどれだけのコスト削減や利益の増加をもたらすかということは重要です。たとえば AI 導入で 1% の成約率アップが達成された場合、大企業であれば金額も大きくな投資が回収できます。しかし、中小企業では金額が小さくなる分、効果も見えづらく、結果として AI へ投資する動機が弱くなります。これまでの導入事例は大手メーカーの生産ラインや金融機関のコールセンターなどが多く、大企業中心になっている要因には、こうした投資対効果の違いがあると考えられる」と述べました。

ただし、「中小企業に AI は不向き」ということでは決してありません。たとえば、AI 活用例として最近注目を集めている「分析」の分野では、クラウドを利用した月額料金制の導入など、低コストを前面に出したサービスが各社から提供されています。また、スモールスタートで実験的に AI を導入する場合、素早い意思決定が可能な中小企業は、大企業以上に適した環境にあると言えます。古明地氏は「多くの大企業には、ベンダーから最新技術に関する情報提供を受ける仕組みがあります。中小企業ではその機会が少ないことも、AI への興味関心が薄い理由の一つではないでしょうか」と指摘しました。

 

AI の役割は「人の仕事を助けること」

日本の企業、ひいては日本社会全体が抱える課題として深刻さを増している「人材不足」。本調査で AI への関心が高いことが示された職種 (システム開発/ ITエンジニアリング、製品/サービス企画、マーケティング/広報) でも課題のトップに挙げられています。AI の導入で人が行っていた仕事が自動化されることは、果たしてそのまま人材不足の解決につながるのでしょうか。

古明地氏はこの点について、「現実を直視して、過度の期待をしないことが大切」と語ります。英国オックスフォード大学と野村総合研究所が行った試算※2では、10 ~ 20 年後に日本の労働人口の約半数 (49%) が AI、ロボットで技術的に代替可能という推計結果が出ました。ショッキングな数字ですが、これには開発コストや法整備に関する部分が含まれないため、半分の人数で仕事ができるということではありません。これまで多くの AI 導入現場を見てきた古明地氏は、「AI は従来の IT システムのように “導入すれば OK” という種類のものではなく、試行錯誤を繰り返しながら育てていくものであり、そのための人材も必要です」と述べました。つまり、AI が人の仕事を奪う段階に至るまでには、AI の学習データの整備や開発をするための人材という「新たな雇用」が発生することになります。

また、AI による自動化は、人の仕事すべてを代替するものではないことにも注意が必要です。本調査では課題として「人為的ミス」を挙げる人も多く見られましたが、単純に「AI ならミスをしない」ということはありません。たとえ定型的な作業であっても、学習させた情報が間違っていればもちろんミスは発生しますし、十分な過去のデータがないために予測が大きく外れてしまうケースもあるでしょう。状況に応じて柔軟に検討したり、今までにない発想で新しいものを生み出すといった仕事を AI で代替することは、現在のところ不可能です。まずは AI を「人の仕事を助ける存在」として捉え、課題解決に役立てようとする姿勢が大切と言えるでしょう。

※1 リサーチ内容: 「AIに関する動向調査」(調査主体 日本マイクロソフト)
ビジネスパーソン/500サンプル回収 インターネット調査(2018年3月実施)
※2 参考: 株式会社野村総合研究所ニュースリリース (2015年12月2日)

2018 年 12 月 11 日 (火) に、IPA (独立行政法人情報処理推進機構) から「AI白書2019」が刊行されました。本書では、AI の技術動向や、国内外の各産業・分野における活用事例、社会実装に向けての課題などが総合的に解説されています。また、日本の各産業での AI 実装化推進のため、日本の経営者層に向けた、業界有識者による対談記事なども収録されています。

「AI白書2019 ~企業を変えるAI 世界と日本の選択~」 印刷書籍版

発行日:2018 年 12 月 11 日

定価:3,600円 (消費税別)

発行:株式会社角川アスキー総合研究所

発売:株式会社KADOKAWA

ISBN:978-4-04-911014-2

Web:https://www.ipa.go.jp/ikc/info/20181030.html

 

取材協力
古明地 正俊(こめいち まさとし)氏
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)イノベーション推進部部長。東京工業大学修士課程修了後、大手メーカーの研究部門においてパターン認識の研究に従事。2001 年野村総合研究所に入社し、IT アナリストとして先端テクノロジーの動向調査および技術戦略の立案などを行う。現在は IPA において IT 社会の動向調査・分析を行い、「AI白書」などの形で情報発信している。
主な著書:
図解 人工知能大全 AIの基本と重要事項がまとめて全部わかる(SBクリエイティブ)
AI(人工知能)まるわかり (日本経済新聞出版社)

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