日本の「働き方」をもっと自由に ~有識者の視点 ワークスタイル & 中小企業


(この記事は 2013 年 7 月に企業市民活動ページに掲載された記事の転載です)

多様な人たちに、もっと多様な働き方を。
ICT の進歩がワークスタイルに変革をもたらします。
世界に比べて導入が遅れているといわれるテレワーク。
わが国の社会にとっての重要性を日本テレワーク協会の会長、宇治則孝氏が語ります。

なぜ、日本は世界と比べてテレワーク導入が遅れているのだろうか。

日本は、光ファイバーやモバイル ネットワークなど情報通信インフラの普及では世界トップレベルです。ところが、ICT の利活用については非常に遅れている。たとえば在宅勤務、モバイル ワーク、サテライト オフィスなどを含めたテレワークの推進も、その典型のひとつといってよいでしょう。
テレワークとは、「tele = 離れた場所」と「work = 働く」を合わせた言葉。時間や場所にとらわれない新しい柔軟な働き方です。最近では、ICT の進歩とともに新しいワークスタイルが次々と実現しています。
米国では、ある調査によるとテレワーカーは就業人口の約 20% を占め、80% 以上の企業でテレワークを導入しています。連邦政府においても、2010 年にテレワークを推奨する法律が施行され、特許庁といった省庁では 60% を超える職員がテレワークをしているそうです。
このような状況と比較しても、日本では企業でも行政でも導入が遅れています。2012 年度における企業の導入率は 11.5% に過ぎません。
その理由はどこにあるのか? すでに情報通信インフラが整っていることを考慮するならば、社会や企業の風土に要因があると私は考えています。
最近、「ワークライフバランス」が注目されていますが、日本人は 2 つのバランスをとるというよりも、ワーク (仕事) とライフ (生活) を切り離して考えがちです。また、仕事への評価についても、成果主義が広がってきてはいますが、オフィスでどれくらいの時間働いたかといったように、評価が時間や場所にとらわれる傾向があるとテレワークの良さが十分に活かせない。このような違いが、海外と日本とのテレワーク導入の差に表れているのでしょう。
しかし、グローバル化や少子高齢化などとともに、日本の企業を取り巻く社会環境は急激に変化しています。その一方で、ICT の著しい進展が社会の随所でパラダイム シフトを引き起こしています。
日本の社会は今こそ、旧来の常識にとらわれず認識を新たにして、テレワークの導入に取り組むべきです。

社会、企業、そして就業者にとってテレワークはとてもメリットのあるしくみ

テレワークは、社会、企業、そして就業者にとっても非常にメリットのあるしくみです。
少子高齢化とともにわが国の労働人口は減り続け、2030 年には現在と比べて約 1 千万人も労働人口が減少すると予測されています。将来にわたって経済成長を持続させていくためにはきわめて大きな問題です。
一方で、世界の先進国と比較しても日本の女性の就業率はけっして高くありません。出産・育児や介護などの理由で仕事を離れていく女性の方々に引き続き活躍できる環境を提供するテレワークは、このような課題を解決するために非常に効果的なしくみです。また、労働力減少の緩和ばかりでなく、環境負荷の軽減、エネルギーの節約などにもつながります。
もちろん、企業にとってもテレワークの効果は大きい。育児や介護を理由に辞めざる得ない優秀な人材の流出を防止できる他、多様な働き方をサポートする制度は人材採用での企業の魅力となります。また、ワークスタイルの変革は生産性や効率性を向上し、さらにオフィス コスト削減などの効果も期待できます。
就業者にとってのメリットはいうまでもありません。在宅勤務になれば、満員電車などの通勤時のストレスを回避し、通勤時間を業務に充てることができます。また、フレキシブルな働き方によって、家族と過ごしたり、家事や育児、趣味などに使う時間を確保でき、個人に合わせた充実したライフ スタイルも実現できるのです。

経営者やマネージャー層がいかに意識を変えるか。そこにテレワーク導入の鍵がある。

テレワークの導入にあたって、経営者の方が懸念する大きなポイントに「労務管理」「セキュリティ」「コスト」の 3 つがあります。
ひとつめの「労務管理」に関しては、テレワークを、優秀な人材を確保し生産性を向上していくために不可欠なしくみとして位置づけ、管理や評価などの制度を改革していくことが必要です。その際に重要なのは、経営者やマネージャー層がまず意識を変えること。「会社の制度としてあるのに、テレワークを利用していない」という話をよく耳にします。その理由を聞くと「上司が理解を示さず、利用しづらい雰囲気がある」と、ほとんどの人が話すのです。ワークスタイルの変革は、経営者やマネージャー層が率先して取り組むべきトップダウン的な課題です。
「セキュリティ」については、企業の業務内容などによって必要となる水準もさまざまですが、よほどレベルの高い要求でないかぎり、現在普及している端末やアプリケーションで対応できるのではないかと思います。また ICT の進歩によって、高性能なソリューションを容易に導入できる環境が整い始めています。
3 つめの「コスト」についても、ICT の力によって解決できます。現在では、クラウド サービスなどの活用によって、非常に低コストでシステムを構築できるようになっています。
すでにテレワークを実践している企業に学ぶことも、スムーズに導入するための大切なポイントでしょう。日本テレワーク協会では、活動の一環としてテレワークの実践事例を数多く紹介している他、「テレワーク推進賞」などを通じてテレワークの啓蒙につとめています。
このように、テレワーク導入のためのインフラや環境はすでに十分整っています。推進の鍵は、経営者やマネージャー層の意識改革に握られているといってよいでしょう。

中小企業にビジネス革新をもたらし、地域経済を活性化していくために。

地域経済を活性化し、日本の国際競争力を底上げしていくためには、中小企業の革新が欠かせません。中小企業においても、経営戦略と情報戦略はますます密接な関係となっており、ICT の活用は今後の成長の鍵となっています。先ほど日本の企業におけるテレワーク導入率は 11.5% とお話ししましたが、中小企業での比率はさらに低くなっています。
ある調査で、中小企業における経営課題のトップ 3 として「営業・販売力の強化」「人材の確保・育成」「販売価格引き上げ、コストダウン」があげられていました。これらはいずれもテレワークによる課題解決が有効な分野です。また、ベンチャー企業の中には、テレワークを積極的に利用して新しいビジネス モデルを構築し、生産性を画期的に向上させたり、サテライト オフィスなどによって地域社会の活性化に貢献しているケースも多く見受けられます。
このように中小企業にとっても、テレワークはビジネス革新をもたらす効果が期待されているしくみです。国や自治体もテレワークの促進施策の一環として中小企業を対象にした助成金制度を設けて支援しています。
政府は、「世界最先端 IT 国家創造宣言」の中で、雇用形態の多様化とワークライフバランスの実現に向けてテレワークの普及を掲げており、2020 年にテレワーク導入企業数を 2012 年度比で 3 倍にするなどの目標を設定しています。また、企業だけでなく行政においても今後は積極的な取り組みが計画されています。
テレワークは、社会で活躍が期待されている女性の方々はもちろん、これからさらに増加する中高年層、あるいは障碍のある方など、多様な人たちへ多様な働き方を提供することができる、日本の社会課題の解決に向けてきわめて有効なしくみなのです。

参考資料

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