マイクロソフトでは、組織の情報共有基盤を構築するにあたって、 Exchange、SharePoint、Lync という三種類のサーバー製品を提供することにより、メッセージング、ポータル、音声やビデオを交えたリアルタイムの共同作業、コンテンツ管理、レポートや分析などのビジネスインテリジェンス、などの様々な機能群と選択肢を提供します。最近は、これらの 3 つの製品をすべて導入して、統合的な環境を構築されるお客様も増えてきました。
上記の機能群は、Exchange、SharePoint、Lyncを、利用用途に適して選択し、展開方法を検討します。その際、同じ用途 (たとえばファイル共有、予定共有をしたい) を実現する機能を複数の製品が持っていることがあります。そのため、すべての製品を導入する際に、お客様からは選択肢が多い分、どの機能をどのような考え方で使い分ければいいのか、また、どのような用途にどのように展開をするのが良いのかという相談を私もよく受けます。今回の記事では、特にお問い合わせを受ける以下の 2 点について、マイクロソフトではどのように運用しているのかの事例も交えながら解説したいと思います。
- 予定共有や施設予約を行いたいのだが、予定表は Exchange と SharePoint の両方が持っている。どちらを使えばいいのか。
- SharePoint はオンラインとオンプレミスの選択肢があるが、社内でどのように活用していけばいいのか。
機能は共有範囲と管理を誰がするかに応じて使い分けよう
どのサーバー製品のどの機能を使うべきかを検討するときは、まずその機能を使ってどれくらいの範囲のユーザーと情報共有をしたいのか、そして管理を誰がするのか、ということを検討する必要があります。製品の機能を使って情報を共有する「エンドユーザー」と、その機能を管理する「管理者」の 2 つの視点があり、同じように思われる機能でも、製品毎にそれぞれがコントロールできる範囲などの特性が異なっているためです。共有範囲と管理者を考えるに当たっては、どういう組織にもあてはめられるように、日本全国、もしくは世界各国に支店を展開している企業の場合を考えます。共有範囲について以下の 4 種類に分類してみたいと思います。
- 全社: 組織全体で共有する場合です。グローバル企業であれば、日本語圏だけではなく英語圏やそのほかの言語でも共有されることを想定する必要があります。(Exchange や Lync は組織全体で導入されるのが普通ですが、組織の一部のみに導入される場合は、その範囲が「全社」となります。) 管理は IT 部門など組織内で集中して行うことが想定されます。
- 拠点: グローバル企業であれば国ごと (日本、アメリカ、中国、など) に分けた単位で考えるとよいと思います。もしくは、国内の支店単位で考えることもできます。管理は IT 部門など組織内で集中して行うことが想定されます。
- チーム: ユーザーが所属する組織としての部門、もしくはプロジェクトベースのグループの規模での情報共有と考えてください。管理はチームごとの管理者が行えると自由度が広がります。
- 個人: 他人とは共有されない情報で、特定のユーザーが複数のデバイスや場所から見る可能性がある情報です。仕組み自体は IT 部門が管理することになります。
それぞれがご自分が所属する組織ではどのように当てはまるか考えてみてください。場合によっては、4つのうちいくつかは合体できるかもしれませんし、ひょっとすると組織の定義のレベル感が多少異なっているかもしれません。
利用する機能と共有範囲が決まったら、次にそれぞれの共有形態を実現可能なExchange/SharePoint の機能と対比して、実装に落としていきます。たとえば、アドレス帳であれば、Exchangeのアドレス帳は全社に公開する情報を掲載するのが適切なのに対して、SharePoint 上ではアクセス権をコントロールして共有する範囲をチームに限定することができるので、より詳細な連絡先情報を共有できる、また、名刺情報などの個人情報の保持にはExchange の連絡先が適切である、など、似たような機能であっても可能な共有範囲が異なることがありますので、吟味が必要です。その際には以下の表を参考にするとよいでしょう。
Exchange のパブリックフォルダーやアドレス帳、予定表は Exchange の管理者のみが構成、情報の変更を行うことができ、IT 部門が中央でコントロールする仕組みになっている一方、SharePoint はチームサイトを許可していれば、チームごとに管理者を置いて情報の更新や権限設定を行うことができるので、より小さな組織単位での情報共有に適します。チームや拠点については、クラウド上でセキュリティグループを定義して、その中に必要なメンバーを登録することで便利に運用することができます。
機能 |
全社 |
拠点 |
チーム |
個人 |
Exchange メール |
|
|
○ |
◎ |
Exchange パブリックフォルダー |
○ |
○ |
△ |
|
Exchange アドレス帳 |
◎ |
|
|
|
Exchange 予定表/施設予約 |
◎ |
○ |
○ |
◎ |
Exchange 連絡先 |
|
|
|
◎ |
SharePoint 個人用サイト |
◎ |
|
|
|
SharePoint 予定表/施設予約 |
○ |
○ |
◎ |
△ |
SharePoint 連絡先 |
○ |
○ |
◎ |
△ |
SharePoint ポータル |
◎ |
◎ |
◎ |
△ |
SharePoint ファイル共有 |
◎ |
◎ |
◎ |
○ |
Lync 連絡先 |
◎ |
マイクロソフトでは予定表機能をどのように使い分けているのか
さて、一つ目のお題である「予定表の使い分け」の話題に入っていきますが、予定表については上記の表の黄色くした行、Exchange/SharePoint の「予定表/施設予約」を見比べてください。Exchange はユーザー個人ごとの予定表と、会議室などの施設ごとの予定表を持つことができます。そして、共有権限の設定をすることで、ほかのユーザーが予定の内容を閲覧できるようになります。ユーザーごとの予定表の権限設定は各々でできますが、会議室の予定表作成や権限設定は Exchange の管理者のみが行うことができます。
Outlook 2013 で Exchange 上の複数の予定を一度に表示 (SharePoint の予定も同時表示可能)
一方、SharePoint は、「予定表リスト」をチームサイトの中に任意の数作成することが可能です。しかも、チームサイトの管理者権限をチームメンバーに委任するようにしておけば、チームごとに任意の数の予定表リストを自分で作成して権限設定も行うことができます。
このような特性を考慮して、マイクロソフトでは以下のような使い分けを行っています。
予定表/施設予約機能の提供製品 |
用途 |
共有範囲および考慮事項 |
Exchange |
各ユーザーの予定 |
空き時間情報は全社に共有、予定の中身はユーザーの裁量で共有するかどうかを選択。 世界中のユーザーと予定調整を行うことができる。 |
社内会議室の予約 |
全社。 自動応答機能があるため、重複予約を自動的に避けられる。ただし、来客用会議室は別の機能用件があるため、SharePoint 上の別のシステムで管理される。国外の拠点の会議室の予約も可能。 |
|
SharePoint |
プロジェクトの予定、チームメンバー共通のイベントなど |
チーム。チームサイト上に任意に作成される。プロジェクトリーダーのみが書き込むようにもできる。チーム全員で書き込むことも。 |
業務プロセスイベントカレンダー (経理の締日の共有など) |
全社 (グローバル)。ただし、経理メンバー以外は読み取り専用。 |
|
部門所有備品の貸し出し |
チーム。チームサイト上に任意に作成される。空き時間を見て空いていれば借りた人が予定を埋める。 |
|
社内の説明会イベント |
拠点 (日本のみ)。IT 部門が管理。SharePoint ベースでカスタマイズしている。登録すると、後で Exchange の予定表に会議依頼が自動で送られてくる。(日本マイクロソフト独自の実装) |
|
来客用会議室の予約 |
来社するお客様を登録すると自動で連絡先アドレス宛に入館証を発行するなどの Exchange にはない追加機能があるため、SharePoint ベースでカスタマイズを行っている。社内ユーザーを登録すると、後で Exchange の予定表に会議依頼が自動で送られてくる。(日本マイクロソフト独自の実装) |
Exchange 上のユーザーや会議室は Active Directory 上の情報とも連動しますので、Active Directory に登録されるようなオブジェクトに関する予定は Exchange で全社的に共有し、その他部門単位で管理している情報については SharePoint を利用しているということになります。
ちなみに、SharePoint の予定表リストの情報は Outlook からも予定表として参照することができ、Exchange 上の予定とも並べて参照することが可能です。
マイクロソフトでは SharePoint をどのように使い分けているか
次のお題として、SharePoint をどのように活用すればいいのか、ということについて解説したいと思います。SharePoint は様々な機能を持っているだけに活用をする際の選択肢が多くかえって迷ってしまうという声も聞かれますが、SharePoint についても情報の共有範囲をベースに考えてみるとうまく整理することができます。ただし、SharePoint は組織内の情報共有だけではなく、組織外との情報共有も可能です。そのため、全社、拠点、チーム、個人のほかに、以下の共有範囲も可能です。
- インターネットのすべてのユーザー: インターネットを利用する世界中のすべてのユーザー向けに公開情報の発信をします。管理は IT 部門が行うことになります。
- 取引先、会員: 組織外のユーザーを無償で招待してアカウントを作成して、招待ユーザーにのみ情報を共有します。管理は IT 部門が行い、サイトの機能はチームごとに行うことになります。
共有範囲をもとに、マイクロソフトではどのように SharePoint を活用しているかについてまとめてみました。
用途 |
共有範囲 |
考慮事項 |
全社ポータル |
全社 |
社内のすべての SharePoint サイトの内容をフェデレーション検索することができる。この場所から検索を実行すれば、そのユーザーが各々の SharePoint サイトで持っている権限に応じて、権限があるドキュメントのみが検索結果として表示されてくる。FAST 検索の機能も活用されている。ポータルサイトは IT 部門が管理。 また、他にも経理、人事など社内の特定業務向けの専用ポータルが存在。通常のユーザーは読み取り専用で書き込みはできない。 |
チーム サイト |
チーム単位、または全社 |
北米、ヨーロッパ、アジアにチームサイト用の共有サーバーが存在。これらのサーバーには、社員が自由にチームサイトを作成することができる。目的は部門毎のポータル、プロジェクト毎のポータル、などさまざまな単位で作成されている。 サイトごとの管理は、サイトの申請者が行う。権限設定はチーム外部への情報発信が目的であれば全社ユーザーのセキュリティグループに読み取りアクセス権限をつける。特定部門やユーザーとの情報共有に限定するのであれば、特定部門を表すセキュリティグループやユーザーのみにアクセス権を設定する。 SharePoint が持っている様々な機能が活用される。 元々オンプレミスのサーバーであったが、SharePoint Onlineの登場に伴い、順次 SharePoint Online に切り替えられる。 |
個人用サイト |
全社 |
Active Directory に載っている社員には全員個人用サイトが割り当てられる。サイトでは、チェックしたいほかのユーザー、ドキュメント、サイトなどをフォローしてニュースフィードを見たり、個人用のドキュメントを保管したりすることができる。ドキュメントの権限設定は任意に変更可能。SharePoint Online を利用。 |
取引先との共有サイト |
招待した取引先のユーザーと社内の特定ユーザー |
申請すると、特定の取引先とのチームサイトが開設可能。社外との情報共有を安全に行うのに便利な仕組みである。 サーバーの管理は IT 部門、サイトは開設の申請者が行う。 |
インターネット サイト |
インターネット上のすべてのユーザー |
SharePoint、Lync、マイクロソフト パートナー ネットワークのサイトなどは SharePoint インターネットサイトを利用している。定型的な情報を掲載するのに向いている。 管理は IT 部門から委任されたマーケティングベンダーチームが行っている。 |
SharePoint アプリケーション |
場合による。全社からチーム単位まで。 |
SharePoint のインフラをミドルウェアとして利用する使い方。オンプレミスのサーバーに、機能を作りこむ。お客様用会議室予約サイト、社内イベント登録サイトなど様々なアプリケーションが存在。 |
このように、SharePoint の活用も、情報の共有範囲によってさまざまな活用法があります。また、同じ企業の中でもオンプレミスとオンラインを目標によって使い分けていることがわかります。今回の記事で、チームサイトにおける活用や SharePoint アプリケーションとしての活用については今回は紹介しきれませんでしたが、大まかな活用シーンについて想像がつくようになっていただけたならば幸いです。