データセンターをシンガポールや香港に置く理由


今週から朝晩も大分冷え込むようになり、地域によっては初雪も観測するなど、いよいよ本格的な冬がやってきました。

そんな中、昨日は株式会社商事法務、西村あさひ法律事務所との共催によるシンポジウム「クラウドの法的課題とその解決策~知らないでは済まされない~」が開催され、多くのお客様にお越しいただき、2 時間たっぷりと最前線の有識者によるパネルディスカッションなどを聞いていただきました。前に「事業所グローバル展開時の IT インフラ・考 (2) ~ クラウドのグローバル展開における法的課題の検討」でもご紹介した通り、クラウドの利用についてはまださまざまな課題があることから採用を躊躇する企業もあるが、逆に過剰な法整備が IT 産業の空洞化を招く、安全は結局のところ程度問題で絶対的安全は存在しないため、経済的合理性の範囲内でどんどん取り組んでいかないと、エンドユーザー企業もビジネスの競争に勝ち抜いていけないという有識者からの声もあり、参加者の方も熱心にメモを取るなど熱いディスカッションの様子に聞き入っておられました。

シンポジウムでも取り上げられた話題の一つとして、データセンターが海外にある場合に、データが手元になく、法制度も日本法でなくなる可能性があるため、なんとなく不安であるという声があるという話がありました。ちなみに、マイクロソフトでは日本を含む東アジアのお客様向けの Office 365 の提供をシンガポールと香港のデータセンターから行っています。これらの 2 拠点は、東アジアにおけるデータセンターの集積地「クラウドハブ」なのですが、なぜこれらの地域が「クラウドハブ」化しているのか、そして最近の報道を見て中国におけるビジネスのあり方について再検討している企業の方もいらっしゃるかもしれませんが、それにもかかわらず香港はなぜ「クラウドハブ」で居続けることができるのかについて以下に見ていきたいと思います。

 

データセンターの場所を選択する際のシンガポールと香港のメリット

シンガポールと香港は、どちらも小さな国及び行政区ですが、どちらも政府による積極的な誘致策、および自然環境や地理的な要因により、近年アジア向けのサービス提供におけるデータセンター拠点として投資が集中しつつあります。これは海外の大手クラウドベンダー企業の動向に限ったことではなく、富士通や NTT などの日本の大手 IT ベンダーや、ソニー、ヤマハ発動機、日本通運などのユーザー企業も、データセンターの拠点としてこの 2 箇所を選択しています。

シンガポールは地震、台風、津波、火山活動などがほとんどない国と言われています。地震はこの 100 年の間一度も発生したことがなく、津波も 100 年ほどの間被害にあったという記録がないようです。台風も低緯度では発生せず、火山もない、という、自然災害に強い地理的特徴があります。また、シンガポールは東南アジアやインドとの通信ケーブルの多くが陸揚げされるハブでもあります。さらに、電力事情も東京より良いという事情があります。シンガポールでは、電力供給量の 4 割が余っており、データセンターに豊富な電力を供給することが可能となっています。東京も世界有数の電力安定供給地域でしたが、震災後の東京の電力需給を見てみると、電力事情にも差が出つつあります。

香港も、有感地震は年に 1~2 回程度という、地震がたいへん少ない地域です。中国本土へのビジネスのゲートウェイとしての役割を果たしていることもあり、データセンターも香港に作られることが多いようです。1997 年にイギリスから中国に返還された後は法制度も中国になっているのではないかと誤解している方もいらっしゃいますが、香港は特別行政区であり、基本法に示された「一国二制度」の原則に基づき、中国本土とは異なる行政、法、経済制度で運用されています。中国では、たとえば「金盾」によるファイアーウォール機能 (Great Fire Wall of China)により、中国国内のインターネット上に出回っているありとあらゆる情報を検閲する可能性があります (注: 11/9 の中国国内から Google サービスへのアクセス制限が疑われる事象など) が、香港は適用対象外となっています。香港も APEC に加盟しており、個人データ (プライバシー)条例という形で包括的なデータ保護法を制定しています。この条例は、 EU データ保護指令などの国際的なプライバシー保護法に見られる原則と同様の原則に基づいており、データセンターに格納されているデータのプライバシーが守られるようになっています。このように、香港では中国本土とは異なる法制度で、欧米諸国並みのセキュリティ、プライバシーが担保される仕組みが整えられています。

また、どちらも政府が積極的にデータセンターハブとしての売り込みを民間企業に行っていることも大きいと言われています。税制的優遇措置をはじめ、政府がセールスマンのように企業に積極的に提案を行い、企業の問題の解決を支援しています。そして、このような優遇措置をうけているクラウドベンダーは、同じサービスでもより安価に提供することができ、ユーザー企業にもその利益が還元されます。

尚、日経コンピュータにも「各国のIT投資を狙うシンガポールと香港 アジアで「クラウドハブ」争奪戦(1)」「政府自ら顧客を誘致するシンガポールの強さ アジアで「クラウドハブ」争奪戦(2)」「「中国本土へのゲートウエイ」香港の引力 アジアで「クラウドハブ」争奪戦(3)」などの記事が連載されていましたので、参考にしてください。

逆に日本国内のデータセンターについては、国内の市場規模は大きいものの、日本国内向けのみに限定されることが多く、海外向けのサービスはほとんど提供されていません。税制的な理由などにより、海外のユーザーに日本からサービスを提供することが難しい現状があるためです。災害についても、東日本大震災後に、日本は災害のリスクが大きい国であることを再認識された企業も多いと思います。シンポジウムにパネリストとして参加された日本航空のように、事業継続対策の観点からむしろ積極的にシンガポールや香港のデータセンターを使う (複数の国と地域に同じデータをバックアップしているサービスを利用する) ことを考えている企業も増えてきているようです。

 

海外のデータセンターを利用する際のリスクをどう考えるか

では、海外のデータセンターを利用する際に日本法でない法律に基づいて運用されたり、物理的に日本国内にサーバーがない、自社のコンプライアンス遵守に支障をきたすのではないかという不安に対してどのように考えるべきでしょうか。これに対する考え方については、ユーザー企業が規制業種にあたるかどうかによっても異なってきますが、たとえば海外に事業展開していて海外拠点でデータを保存している企業であれば、海外のデータセンターを使うことと同等のリスクを背負っていると考えることができます。日本の大手ユーザー企業でも、すでに積極的にシンガポールや香港のデータセンターを活用しているところが出始めてきているので、自身の業種の規制などとリスクをきちんと照らし合わせれば、海外データセンターも利用できるという結論を得られるという事例となっています。

また、何かあった時にやり取りの対応を迫られるのは、データセンター事業者自体というよりはそれを利用してサービスを提供しているクラウドベンダーであるため、サービスを提供しているクラウドベンダーが日本国内できちんと対応してくれる体制が整っているかどうかというところをチェックすることが重要となってきます。たとえば、サービス利用契約の管轄裁判所が日本の裁判所になっていることなどが安心材料となります。

海外データセンターの利用にあたってよく取り上げられるリスクには以下のような項目があります。これらは「事業所グローバル展開時の IT インフラ・考 (2) ~ クラウドのグローバル展開における法的課題の検討」で検討を行っていますのでご参照ください。

  • 米国愛国者法への対応
  • 個人情報保護法への対応
  • 輸出管理規制への対応
  • 準拠法と管轄裁判所

 

今までは、海外のデータセンター利用のリスクが強調されすぎていた側面があります。しかし事業継続対策などを考えていくにあたり、この機会に海外拠点のデータセンターをむしろ積極的に利用していき、ビジネスを有利に進めることを考えてもよいかもしれません。日本マイクロソフトでも、グローバルなクラウドサービス提供者として、お客様がクラウドサービスを検討する際のリスクを正しく評価できるように、必要な情報を提供していけるよう日本国内でも継続的に体制を強化しています。検討に当たりご不明な点がございましたら、担当営業を通じてお問い合わせいただけましたら、できる限りの回答をさせていただきますので、よろしくお願いいたします。

 

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