フレキシブル ワークスタイル実現のポイント (4) ~ コミュニケーションを設計する


もし、最初から最後まで一人で完結できる仕事ばかりならば、ワークスタイルに悩む必要などありません。仕事の材料を持ち運べるかどうか、またそれらを個人が所有または占有できるものなのかどうかが、唯一ワークスタイルの決定要因となります。しかし、複数人での共同作業が前提になると、そこにコミュニケーションという要素が追加されます。コミュニケーションの成立のためには、自分と相手との接点が必要であり、互いのワークスタイルの中でその接点をどう扱うべきかを考えなければならなくなります。よってワークスタイル効率化のためには、企業や組織全体としてのコミュニケーション設計が重要なのです。

コミュニケーションとは?

コミュニケーションを 「人と人」 の情報交換に限定したとしても、一般にコミュニケーションとして認識されている範囲の情報交換だけでは、そのプロセス全体をカバーすることはできません。たとえば、電話や電子メールはもっともイメージされやすいコミュニケーションだと思いますが、それらによって伝達を仲介される電子ファイルの共有も、電話や電子メールの情報交換効率を補完する行為ですから、コミュニケーションの一部として扱うべきです。さらにはそのファイルの生成に至る情報活用プロセスもまた、コミュニケーションの質に大きな影響を与えているはずです。

電話や電子メールは、単なる伝達ツールであって、コミュニケーションそのものではないことを改めて認識する必要があります。コミュニケーション ツールは、その時点でのコミュニケーションを効率化するために導入されます。したがって、ツールにばかり気を取られていると、ワークスタイル変革は実現できません。前回の例でいえば、現在の 「Face-to-Face 至上主義」 においては、集合型会議というツールが、あらゆる意思決定において欠かすことのできない存在と映ります。しかし、会議を意思決定のためのコミュニケーションと考えれば、気心の知れたプロジェクトメンバー間など、質よりもスピードの価値が大きくなる意思決定では、Face-to-Face の重要性は相対的に低く、スピードを得るための包括的な情報伝達の仕組みのほうがより重要だと気づくはずです。つまりコミュニケーション設計は、企業や組織全体における情報流通設計の中で考えられるべき話なのです。

コミュニケーションによる情報への価値の付加

情報活用のゴールをビジネス価値の生成とするならば、その価値は情報が形状を変え伝達されていくプロセスの中で追加されていきます。詳細は別の機会に譲りたいと思いますが、たとえば業務システムに蓄積された数値データが、人の視点や意思を得てレポートなどの形式化情報に編成され、それを別の人が自らの経験を踏まえて解釈する、といった一連の情報生成と消費のプロセスを通じて、最終的なビジネス価値を生み出す知恵に変換されていきます。

一般にコミュニケーションと呼ばれているものは、人の知識をいったん言葉に形式化したうえで、音声または文字で伝達する、揮発性の高い行為を指しています。しかし前述のように、そこに至るまでの情報活用プロセスがなければ、この狭義のコミュニケーションは成立し得ません。業務データはビジネス活動の成果を表す情報であり、業務データ活用は市場と人のコミュニケーションともいえます。共有ファイルは人の意思や経験の交換の記録であり、情報活用は時間をまたいだ人と人のコミュニケーションでしょう。つまり、これらを含めた情報流通全体を設計することで、より全体の質とスピードを向上させることができます。そしてその設計は、その企業や組織のビジネスモデルに密接に関連しています。

日本マイクロソフトにおける情報流通設計

日本マイクロソフトは、米国マイクロソフト コーポレーションの製品を日本市場において販売する会社です。日本マイクロソフトのビジネス モデルは、Windows や Office、SQL Server といったソフトウェア コンポーネントやツールを市場に安価かつスピーディに投入し、それらをベースにパートナー企業がソリューションを提供することで、エコシステム全体の継続的な成長の中で、自らは中核の安定的な収益を拡大していくというものです。したがって、それらコンポーネント単位での市場開発戦略が相対的に重要となり、常に多数のプロジェクトが同時に走ることになります。プロジェクト メンバーは複数の部門を横断し、各メンバーは複数のプロジェクトに同時に参加、おのずと近くの席に座っていない相手とのコラボレーション機会が多くなります。プロジェクト期間は 1 年より短いことも多く、中止の決断も迅速になされます。プロジェクト チームごとのメンバー数はさほど多くなく、またプロジェクトごとに必要となる情報の種類や質、タイミングも一定ではないため、コミュニケーションの定型化は困難です。期初に時間をかけて戦略の伝達と調整、合意を行ったのちは、役割と権限に基づき、各メンバーがそれぞれの裁量に基づきスペシャリティを発揮して、プロジェクトを遂行します。

おのずと、弊社におけるコミュニケーション プロセスは 「人中心」 になります。すばやい意思決定と行動のためには、いちいち組織ツリーをたどった情報伝達や意思確認など行っていられません。プロジェクトは組織横断で、かつ 1 年単位で消滅するため、過去のプロジェクトにおけるプラクティスは、自分で探し当てるしかありません。組織内のハコに業務が割り振られるわけでも、組織内に脈々と暗黙知が蓄積されているわけでもないため、組織図では仕事ができないのです。

さらに 2010 年 2 月に本社を品川に移転して以降、約 6 割の従業員をフリーアドレスに移行しファシリティ コストを削減、また東日本大震災以降は全社員が当日でもテレワークを採用できるようにし事業継続性を維持するようにしたため、コラボレーション相手が近くにいる保証はありません。

よって弊社では、情報共有のハブとしての SharePoint サイトとそのオフライン クライアントである SharePoint Workspace を活用し、ドキュメントやデータなどの非同期の情報交換を確実にしています。SharePoint サイトは個人が自由に作成でき、プロジェクトやチーム メンバー同士の情報共有場所として機能するばかりでなく、その活動に関するナレッジベースともなります。技術的な詳細は次回ご紹介しますが、SharePoint では各ユーザー個人専用のワークスペースが用意され、自分用のネットワーク ストレージとして活用できるとともに、Facebook のようなプロファイルやコミュニティへのアクセス機能によって、人と人、人と知識のつながりが強化されています。また同じくSharePoint に搭載されているエンタープライズ検索機能によって、キーワード一つでそれに関連するドキュメントや Web コンテンツばかりでなく、そのキーワードに深い関連を持つプロジェクト サイトやエキスパートをも探し当てることができるようになっています。
さらに、このような形式化情報と人のネットワークの非同期通信ハブとして機能する SharePoint の土台の上で、Lync が人と人の間の同期通信をカバーします。単なるテキストや音声、ビデオ映像の交換だけでなく、ファイル転送やアプリケーション共有など、コミュニケーション効率を補完する情報共有機能、さらに SharePoint の検索エンジンと連携したエキスパート検索機能も搭載されているため、ツールを切り替えることなく、同一セッション内でスムーズなコミュニケーションを実現できます。共有ファイルや人のネットワークを SharePoint に格納することで、リアルタイム コミュニケーションの欠点である揮発性をカバーしているのです。

このように日本マイクロソフトでは、情報の生成から伝達に至る一連のプロセスを、ユーザー自身が自分で構築できるようにすることで、柔軟性とスピードを担保しています。もちろん、企業のビジネスやマネジメントのスタイルによって適切な設計は異なるはずであり、弊社は一つの例に過ぎませんが、ビジネス モデルから課題を洗い出し、それを改善するための情報流通のあり方を考えるステップの重要性の理解には役立つかと思っています。

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