フレキシブル ワークスタイル実現のポイント (3) ~ Face-to-Face の ROI を意識する

今回からは、物理的な場所への集合がもたらす価値を分解して明らかにし、それをどう代替していくのかの考察を進めていきたいと思います。

何のために会社に集まるのか

前回まで、時間管理や仕事の割り振りのために同じオフィスに集まる必要がある、ことが誤解であることを説明してきました。それでもなお集まる理由が残されているとすれば、それは 「同期性」、つまり同僚との情報交換の効率にあります。

現代のビジネスでは、もはや 1 人で完結する業務などほとんど存在しませんから、同僚とのコラボレーションは必須です。コラボレーションにおいて情報交換はあらゆるステージで肝となる機能ですから、情報交換の効率はそのまま成果に跳ね返ります。

情報交換の効率は、そのスピードと質からもたらされます。これらを上げるには、当たり前ですが、まず時間の共有が必要です。勤務時間帯、もしくはコミュニケーション可能な時間がずれていると、メールやメモなどの非同期なコミュニケーションに頼らなければならず、コミュニケーション完了までの時間は長くなり、またコミュニケーションが分断されることで、たとえば前の会話を思い出す時間などのオーバーヘッドがかかってしまいます。また、いかに一度に多くの情報を、正確に伝えられるかも重要です。情報伝達エラーがあれば手戻りが発生します。一度に伝えられる情報が少なければ、人の頭の中での情報処理スピードとの差が付きすぎてしまい、そこがボトルネックとなって全体の生産性が落ちてしまいます。これらが、同じ場所に集まりたくなる動機になります。

言うまでもなく Face-to-Face コミュニケーションが、情報交換のスピードと質を実現するにあたり、最も優れた手段です。人と人との情報交換は、言語情報だけでなく、声色や間、表情や身振りなど、言語外情報もまた重要な役割を果たします。もちろん時間を共有していなければFace-to-Faceは成立しません。しかしこの贅沢をするために、どれだけのコストを支払えるのかを、よく考える必要があります。時間の共有や情報交換の質をある程度担保できる手段があるのならば、その組み合わせによって代替することも検討すべきです。

日本企業では伝統的に、機能別組織構造をとってきたため、コラボレーション相手が同一部門や近くにいる可能性が高く、Face-to-Face は容易かつ十分にリーズナブルな手段でした。しかしこの傾向は近年変わりつつあります。スピード経営やリスク対策、サプライチェーンのグローバル化、今後の労働力確保のための多様性の許容など、組織の在り方や働き方が変わってきています。Face-to-Face実現のために払う犠牲のコストが、相対的に大きくなってきているのです。コミュニケーションのスピードを上げるために、コミュニケーションに至るまでのスピードを大幅に落とすなど、本末転倒なのは言うまでもありません。

会議を見直す

同じ場所に集まる、集合型のワークスタイルは、もはや十分なROIを発揮できない時代になりました。スピードと質とコストのバランスをいかに取っていくか、それをより効率的に実現するために IT を含むワークプレイスはどうあるべきか、を考える必要があります。その具体的な姿を、「会議」 を例にとって考えてみましょう。

会議は、集合型コミュニケーションの典型と言えます。Face-to-Faceが必須要件ならば、自部門以外の人との複数人でコミュニケーションする場合には、おのずと会議を開くことになります。しかし会議の開催には膨大なコストがかかります。主要なメンバーが同じ時間、同じ場所に集まるためには、メンバー全員の予定と、さらに会議室の予定を合わせなければなりません。せっかくやるのだから、関係のある人をできるだけ巻き込みたくなり、それだけに事前準備や、さらにそのための事前ネゴが必要になります。せっかく参加したので何か発言をと思っても、主要メンバーでなければありきたりな報告ぐらいしかできません。1時間の会議が設定されていればなんやかんやで1時間使おうとするでしょう。結局、コア メンバーで15分程度話して結果をメールで告知すれば済むような内容でも、1時間かけて8割以上の人が発言しないような報告会議が実施されます。そして参加者や上司に報告するための議事録を誰かが書きます。ほとんどの人にとっての、ほとんどの時間が無駄に使われるわけです。

もちろん、会議は会議で重要な場合もあります。たとえば長時間にわたるブレーンストーミングを、メールや電話で行うのはまず不可能です。しかし、日常の意思決定の大部分においては、今やスピードのほうが優先される時代です。時間とコストをかけて大人数の会議を、満を持して開くよりも、少数のコア メンバーのFace-to-Face + 非同期の情報伝達の組み合わせのほうが有利でしょう。ならば、それに沿ったオフィスと IT の在り方があるはずです。

弊社でも実践していますが、たまたまオフィスにいる人同士の Face-to-Face をより効率的にするために、会議室ではなく、気軽に集まりディスカッションできるようなオープンスペースをたくさん作ったほうが、少人数での頻繁なディスカッションが加速します。離れた相手をディスカッションに加える必要があるときも、よく仕事をする同僚が相手ですし、Lync のようなPCベースのチャットで十分でしょう。インターネット経由で外部からもアクセスできますので、自分や相手の居場所を全く気にすることなく、どこでもコミュニケーションできます。必要な時に必要な人にすぐに呼びかけ、短時間で濃いディスカッションを行い、用が済んだらすぐ解散です。このスタイルがこなれてくると、次第に無駄な会議が減ってくるはずです。

コミュニケーションのバランスを変えて効率を上げる

会議は 1 つの例に過ぎませんが、集合型のワークスタイルにおいて必然だと考えられていた非効率が、コミュニケーション スタイルを変えることで解消することができるようになります。次回は弊社での実践スタイルを例にとって、そのポイントをいくつかご紹介したいと思います。