埋もれた知識を掘り起こす仕組み作り


破壊的変化に勝ち残るための組織力

前回ご紹介の通り、情報流通量の増大とともに情報の「選別」が大きな課題になりました。ここ数年にわたる BI や企業内検索へのニーズの高まりはそのことを裏付けています。しかし、これらの技術はあくまで「適切に管理された情報」を活用するものであり、そうではない情報は見つけることすら困難です。たとえば、インターネット上のコンテンツとは異なり、企業内情報の多くは、検索されることを前提に作られていません。それでも全社通達資料など、正式な担当者が公式に作成した情報は、企業ポータルのトップ ページや決められた場所に置かれるため、それら付随する情報によりヒット率は高まります。しかし、どんなに有益なものであっても、営業マンが担当顧客向けに提案書をカスタマイズする過程で作成した分析資料といった中間的な情報が日の目を見ることはありません。しかし、そのような情報にこそ事態を打開する重要なヒントが隠されています。

一口に情報といっても、さまざまな種類があります。ここでは以下の 4 つに分類してみました。

 

 

詳細は省きますが、「データ」は数値や文字などの符号でだれが見ても同じ、つまり客観的な「事実」です。「文書」は人から人に伝達するための言葉、つまり伝達者の「意思」を運ぶメディアです。「知識」は単なる記憶ではなく、その人の経験を元に、情報にストーリーを持たせたもの、つまり情報の「解釈」です。「知恵」は情報や知識を脳の回路に通して生み出される新しい「アイデア」です。データと文書は共有可能ですが、知識と知恵は共有できず、この 2 者間には非常に高い壁があります。また後者になるほどそれを使う「文脈」次第でその価値が変わります。よって、情報プラットフォームの設計においては、データや文書が、どのように知識や知恵に変わり、価値を生み出していくのかを理解する必要があります。

 

ナレッジ マネジメントの失敗事例からの教訓

国内でも何年か前にナレッジ マネジメント (KM) がブームになりました。ご存知のとおり、KM は人の頭の中の「暗黙知」を共有可能な「形式知」に変化させ、それを「場」に持ち寄って各個人の暗黙知へと再び「内面化」させることで知識を高めるプロセスです。前述の 4 分類で言い直せば、知識を文書に変換、対面で共有することで文脈も含めて理解し、正しい知識から適切な知恵を生み出すことを狙っています。この頃、KM の名の元に多くの文書管理システムやグループウェアなどが導入され、多くの失敗事例を生み出しました。

多くの日本企業では、営業や開発といった縦割りの「機能別組織」による統制が強い傾向にあります。これと対極にあるのは米国企業などで多く見られる「プロジェクト型組織」で、活動単位、つまり横方向の連携が強調されます。機能別組織の場合、同じ組織内の従業員はたいてい似たような経験を積み、そこで得た知識は、組織文化や習慣という形で、暗黙のまま組織に蓄積、受け継がれます。したがって、ここでは知識の形式化は必要とされません。他部門との協業はいったん組織の上層部を通過して合意されるため、情報伝達にロスが発生するものの、近しい立場の人の間での対話という基本モデルは崩れません。一方プロジェクト型組織の場合、活動単位で各部門から代表者が集まるため、各々は特定分野のエキスパートとして、異なるバックグラウンドを持つ他のメンバーにも理解できるよう、その知識を形式化して伝達する必要があります。プロジェクトがまさに「場」となり、メンバーそれぞれがプロジェクトの文脈に従って形式化した情報を必然的に持ち寄り、共有するのです。どちらがいい、とは一概には言えません。機能別組織はスピードと多様性に欠けますが、プロジェクト型組織はプロジェクトの終了と共に知識が散逸します。どちらの組織形態をとるにせよ、欠けている部分を IT システムで補わなければなりません。

機能別組織がベースとなる日本企業がスピードと多様性を高めるために必要なのは、形式化情報を共有する場所としての文書管理システムやグループウェアではありません。前回ご紹介した、機能部門間での共通文脈となる戦略の共有、そしてその他に、組織外に散らばるエキスパートにすばやくダイレクトにつながるためのパスと、その知識をお互いの負担なく引き出すための手段こそが必要なのです。

 

SharePoint の「ソーシャル ネットワーク」がもたらす情報管理手法の革新

インターネットの世界では既に一般化した SNS ですが、この仕組みを企業内に展開することで、情報過多の時代にマッチした、まったく新しい情報管理が実現できます。そのカギとなるのが「タグ」と呼ばれる技術です。

タグはブログなどでよく使われていますが、そのコンテンツがどんなものなのかを示すキーワードです。1 つのコンテンツに複数のタグを付けることができ、ブログの閲覧者は日付の新しい順に並んだ膨大なエントリーから、関心のあるコンテンツをすばやく絞り込んで表示することができます。また近年増えてきた「ソーシャル ブックマーク」もタグの一種と考えていいでしょう。多くの方はブラウザーの「お気に入り」によく訪れる Web ページのリンクを登録されているかと思いますが、ソーシャル ブックマークは、このリンクをブラウザーではなく Web 上のサービスに登録することで、別のマシンや、他のユーザーからもリンクが参照できるようになる、という仕掛けです。タグはその名の通り、コンテンツに対する「目印」となります。

 

SharePoint 2010 では、ドキュメントやページなどのコンテンツに対して、自由にタグを付けることができます。SharePoint のタグには、一般には「タクソノミー」と称される組織共通の用語辞書と、「フォークソノミー」と称されるユーザーが自由に作成できるキーワードの 2 種類があります。前者はドキュメントを系統だてて管理するために使い、後者は各人が自分の尺度で情報を分類するために使います。ここでは後者の説明をします。

SharePoint 2010 のフォークソノミーには、「お気に入り」と「タグ」の 2 種類があります。SharePoint  のページやドキュメントを閲覧する際、画面右上などにこれら 2 つのタグを付けるボタンが表示されます。これらは技術的には同じ仕組みなのですが、「お気に入り」の場合はボタンを押すと「お気に入り」というテキストでそのコンテンツにタグを付けます。「タグ」 (ボタンの名称は「タグとメモ」) のほうは自由なキーワードを入力できます。自分が付けたタグは、ユーザーごとに自動生成される専用ポータルである「個人用サイト」に「タグ クラウド」として表示され、任意のタグをクリックすると、そのタグを付けたコンテンツのリストが表示され、そこからコンテンツにアクセスすることができます。

 

このタグ クラウドおよびコンテンツのリストは、そのタグを付けたユーザーだけでなく、他のユーザーもそれを閲覧することができます。個人用サイトにはこの他に、この人の組織上のプロファイル、得意分野、興味分野、過去に関わったプロジェクト、仕事仲間の一覧、公開を許可しているドキュメントやリンクなどが表示されます。Facebook などのインターネット上の SNS サービスをイメージしていただければわかりやすいでしょう。SharePoint では、この個人用サイトを基点とした企業内ソーシャル ネットワークを経由して、ナレッジを共有します。たとえば「SharePoint 製品担当者」の個人用サイトのタグ クラウドで「SharePoint」をクリックして表示されるコンテンツの一覧は、SharePoint に関する非常に重要なナレッジ ベースであることは疑う余地はないでしょう。さらに、特定製品に縛られない営業担当者であっても、その人の得意分野や過去に関わったプロジェクトなどから SharePoint への専門性の高さや実績が読み取れれば、その人の SharePoint タグによる一覧もまた、貴重な情報であろうことがわかります。

通常このような情報には、その人の能力をあらかじめ知っていない限り、組織図をたどろうが検索しようが、なかなかたどり着けません。しかし SharePoint では、話題や関心、専門分野といった情報をキーとして、その先につながる人や情報にたどり着け、今まで組織の陰で埋もれていた貴重な知識をも、すばやく発掘できるようになるのです。

 

さらに、自分の興味分野や仕事仲間に関する情報の変更がなされた場合、「個人用ニュース フィード」画面で通知を自動的に受け取ることができます。これで、自ら情報を探しに行かなくても、重要である可能性の高い最新の情報に、常に触れることができるようになります。

 

 

このように、SharePoint ソーシャル ネットワークによる、組織の壁を越えた知識ネットワークの構築により、組織が持つ貴重な情報資産を、余すことなく活用できるようになります。ビジネスのスピードが強く求められている現代企業では、さまざまな現場の知恵に直接アクセスできる仕組みの実現は、組織の競争力に絶大な影響を与えるはずです。しかしもちろん、これは知識にたどり着くための手段の 1 つであり、前回ご紹介したような互いの文脈を理解するための戦略情報の共有や、別の機会にご紹介するリアル タイムで負荷のかからないコミュニケーション手段なども合わせて、組織のワーク スタイルに合った、スムーズな知識流通プラットフォームの設計が何より大切です。

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